顧客データをマーケティング領域などで活かしたいが、具体的にどう活用できるのかイメージが湧かない
顧客データを実際に活用している事例を知りたい

そのような方を対象に顧客データの活用方法や事例を紹介します。

  • 顧客データ活用とは
  • 顧客データ活用で実現できること
  • データ活用の進め方
  • 顧客データ活用事例5選
  • 顧客データ活用を成功させるポイント

2024年最新の情報をお伝えしますので、顧客データをどう役立てればよいかお困りの方は、ぜひ本記事を課題解決にお役立てください。

 

西潤史郎(監修)/データ分析基盤.com編集部

uruos.net/Submarine LLC

データエンジニア/Editor Team

顧客データ活用とは?

顧客データ活用とは、企業が顧客に関連する多様なデータを収集・分析し、顧客ニーズに応じたサービスや製品の提供、マーケティング施策の最適化、業務効率化を図ることです。

必要とされる背景

顧客データ活用が必要とされる背景には、デジタル時代における消費者行動の変化があります。

インターネットやスマートフォンの普及により、膨大な量の顧客データが生成され、企業はそのデータを活用して精度の高いマーケティングを実現することが求められています。

データの収集・蓄積から解析・可視化に至るまでのプロセスを通じて、顧客の行動や嗜好を深く理解し、ニーズに合わせたパーソナライズされた施策が可能になります。

さらに、顧客のニーズは急速に多様化・個別化が進んでいます。例えば、年齢や性別といった属性情報だけでなく、購買行動や関心のある分野といったデータを元にしたセグメンテーションやRFM分析などの手法が求められています。従来の一斉配信型のアプローチではなく個々の顧客に最適な、つまりパーソナライズされた提案を行うことが重要です。

これに伴い、長年の勘と経験のみでは対応できない時代に突入しています。従来はベテランの営業担当者が勘を頼りにしていた意思決定も、今やデータに基づいた定量的なアプローチが必要とされています。

顧客データの活用は、企業の意思決定を支えるだけでなく、顧客満足度の向上や業務の効率化、さらには新たな商品開発の推進にもつながる、不可欠な要素となっているのです。

顧客データ活用で実現できること

顧客データの活用は、企業の成長と競争力の強化に重要な役割を果たします。

以下では、顧客データを活用することで具体的にどのような成果が期待できるのかを解説します。

現状の把握

データ分析を通じて現状を正確に把握することは、適切な施策の立案に欠かせません。

顧客の購買行動や属性、興味関心の傾向を顧客データとして可視化することで、企業は現状の強みと課題を明確に認識できます。

例えば、顧客を年齢・性別・住所・行動パターンなどのセグメント(区分)によって細分化することで、顧客層ごとの特徴を明らかにすることが可能です。これをセグメンテーションと言います。

各セグメントのニーズに合わせたマーケティング施策を展開することで、より効果的にアプローチしやすくなります。

顧客エンゲージメントの強化

パーソナライズされた顧客体験を提供することで、顧客エンゲージメントの強化に貢献します。

顧客一人ひとりの購買履歴、行動データ、嗜好を細かく分析すれば、個別化されたメッセージやオファーが可能です。

例えば、ECサイトで使われるRFM分析があります。RFM分析とは、「Recency(最近の購入日)」「Frequency(購入頻度)」「Monetary(購入金額)」という3つの指標で顧客を分析する手法です。

これらの情報から、顧客をグループ分けできるため、個別の状況にあわせたメールを送付するなど、全体のエンゲージメントを向上させる施策を実施できます。

また、データに基づくデータドリブンマーケティングを実施することで、顧客のライフサイクルに応じたアプローチが可能になることも特徴です。

顧客の行動データから、潜在顧客が見込み顧客になるよう、適切なタイミングで有益なコンテンツや最新情報を提供可能です。

顧客データを活用し、パーソナライズされた体験を積み重ねることで、顧客のロイヤルティを強化し、LTV(顧客生涯価値)の最大化につながります。

効率的なカスタマーサポート

顧客データを活用することで、カスタマーサポートの効率化が図れます。顧客の過去の問い合わせ履歴や購買行動をもとに、予測される課題を事前に把握し、迅速かつ適切な対応が可能になります。

これにより、顧客満足度の向上とサポートコストの削減を同時に実現できます。

新製品・サービスの開発

顧客データは、顧客の未満足なニーズや新たなトレンドを検知し、これを商品開発に活かすことが可能です。

例えば、小売業界では、顧客の購買データから売上が伸び悩んでいる商品や新たな需要を見つけ出し、それに応じた新商品の開発を進めることで市場のニーズに迅速に対応できます。

実行した施策の効果検証が容易になる

データ活用により、実行したマーケティング施策や業務改善の効果を定量的に測定・検証することが容易になります。

従来は顧客データの情報収集には、時間がかかり、PDCAを回すスパンが長くなる傾向にありました。例えば、小売店などで、陳列棚などを改変したことで売上にどのような変化があったのかは、すぐにはわかりませんでした。

近年では、POSレジやECサイトでの購入情報をインターネットを経由して、リアルタイムで収集できます。

そのため、PDCAサイクルをこれまでよりスピーディに回すことが可能です。PDCAサイクルをこれまでより短いスパンで繰り返すことで、施策の精度が向上し、成果を最大化させることが可能です。

データ活用の進め方

顧客データを効果的に活用するためには、体系的にプロセスを構築する必要があります。

ここでは、顧客データ活用の進め方を5つのステップに分けて解説します。

1.データ収集

データ活用の第一歩は、信頼性の高いデータの収集・抽出です。収集対象となるデータの例としては、以下のものがあります。

  • 顧客の購買履歴
  • 行動履歴
  • 嗜好情報
  • アンケート結果
  • 対象日の気象データ

これらのデータを効果的に集めるためには、データ管理プラットフォーム(DMP)やカスタマーデータプラットフォーム(CDP)といったツールを活用し、一元管理することが重要です。

特にECサイトや小売業では、店舗とオンラインで得られるデータを統合し、顧客の全体像を把握することが効果的な施策の基盤となります。

2.データ整理・クレンジング

収集したデータは、データの重複や表記ゆれ、欠損があり、そのままでは利用できないデータも多いため、データ整理・クレンジングが必要です。

データ整理やクレンジングで、適切なデータベースを構築することで、データの信頼性を確保することにつながります。

クレンジングを徹底することで、顧客属性や行動パターンの正確な把握が可能となり、セグメンテーションやRFM分析といった分析手法の精度が向上します。

3.データ分析

整理されたデータを基に、見込み顧客の購買行動や嗜好を分析するプロセスです。

分析手法としては、RFM分析や購入金額の高い方から10段階にランク付けし分析するデシル分析、機械学習による予測モデルの構築などがあります。

従来のデータ分析では、詳細かつ正確な分析は難しく、分析者の経験や勘に頼っている側面がありました。顧客のビッグデータを集めた分析では明確に数字が出るため、事実ベースで施策を立案することが可能です。

また、顧客データはデータの可視化ツールを使うことで、複雑な分析結果を分かりやすく伝えられます。

4.施策立案

分析結果から導かれた顧客の行動パターンに合わせて、パーソナライズされたアプローチやレコメンド機能などを活用するなど、データから得られた知見に基づいて、施策立案を行います。

例えば、特定の商品に関心を示した顧客に対して、関連商品のレコメンド機能や限定オファーを提供するなどの施策を行うことで、購入促進を図ることが可能です。

顧客のリピート率を上げるための施策や、購買頻度を高めるためのロイヤルティプログラムの実施など、顧客のLTV(顧客生涯価値)の最大化を目指したデジタルマーケティング施策が重要です。

5.継続的な改善

施策を実行した後は、その効果を定量的に検証し、PDCAサイクルを回して継続的な改善を図ります。

データに基づいた効果検証を行うことで、施策の成功要因や改善点を具体的に把握でき、次の施策の精度が向上します。定期的な見直しと改善を続けることで、顧客満足度を高め、企業の成長を促進することが可能です。

また、データの蓄積と分析のサイクルを繰り返すことで、新たなトレンドや潜在的なニーズを早期に検知し、先手を打った施策を展開できます。これにより、市場環境の変化に柔軟に対応し、競争優位性を維持するためのデータ活用がさらに推進されます。

活用事例5選!

顧客データを活用した事例を5つ紹介します。

株式会社八芳園

株式会社八芳園は、江戸時代より続く広大な日本庭園を保有し、婚礼・宴会事業やMICE事業の推進、地域プロデュースなどの事業を展開している企業です。

項目 説明
課題 ・システムが乱立し、顧客情報が分散
・人海戦術で対応していた
施策 ・顧客データの分析や施策展開が一元管理できる「SAP Emarsys Customer Engagement」を導入
成果 ・顧客データの一元管理体制の実現
・ツールに搭載されているロイヤルティプログラム機能を活用し、顧客満足度の向上を目指した施策を展開

 

ポイント

システムの乱立により顧客データが分散し、効率の悪い状態になっていたところを、一元管理できるツールの導入で解消した事例です。

部署ごとに管理を行うなど、データの分散やサイロ化が課題となっている企業では、まず適切なツールやデータ分析基盤の導入を検討することも重要な一歩です。

参考:SAP|八芳園、顧客体験向上を目指しSAP® Emarsys® Customer Engagementを導入

鳴海製陶株式会社

鳴海製陶は、食器・洋食器のメーカーです。売上向上と、顧客とのコミュニケーションを取ることを目的に、ECサイトを立ち上げました。

項目 説明
課題 ・ECサイトを立ち上げて売上は増えたが、利益率が伸び悩んでいた
・保有する顧客データを、施策改善に十分活用できていなかった
施策 ・購買履歴の分析結果から、既存顧客のリピート獲得が重要と判断
・会員情報と購買履歴情報の分析結果をもとに、ステップメールのターゲット・内容・タイミングを最適化
成果 ・通常のメールと比較して、クリック率、コンバージョン率が約10倍に
・リピート購買率が約20%向上した

 

ポイント

まず分析結果から「既存顧客のリピート購入回数と単価の増加」という明確な目標を設定し、その上でセグメント別に施策の最適化を行った事例です。

これまで蓄積してきた顧客データを活用し、適切な施策改善へとつなげています。

参考:シナジーマーケティング株式会社|鳴海製陶株式会社

株式会社アーバンリサーチ

株式会社アーバンリサーチは全国198の店舗とオンラインショップ(EC)を展開しているアパレル業界の大手企業です。

項目 説明
課題 ・売上のみに注力し、店舗とECとの関係や顧客データの深掘りをしてこなかった
施策 ・割引率を基準に顧客を4つのクラスターに分類
・クラスター別に各ブランドのシェア率を調べ、​​要望にあわせた取り組みを行った
・需要予測ツールを導入し、値引き率を調整した
成果 ・売上と粗利率の向上

 

ポイント

同社では、売上にのみに注力していましたが、顧客分析に注力した結果、自社のさまざまな課題の発見ができました。

分析結果を通して、商品のサイズ展開やキャンペーン施策に落とし込んだことで、売上・粗利率の向上などの成果につながりました。

参考:Canon|DXの実現へ データドリブンが生み出す新たな価値

城崎温泉

城崎温泉は、兵庫県北部にあり、7箇所ある外湯が有名な観光地です。城崎温泉は、温泉街の活性化のため、さまざまなイベントを開催しています。

項目 説明
課題 ・観光客の行動を「定量化」して管理する
・意思決定の迅速化
施策 ・デジタル外湯券「ゆめぱ」を発行し、顧客の行動を調査
・イベントや広告宣伝の効果を数値化し、評価・分析
成果 ・花火など顧客が足を止めるイベントよりも灯籠流しのように街を歩きながら楽しめるイベントが売上増に貢献できるなどの知見を得た
・客観的なデータにより意思決定が迅速化した

 

ポイント

デジタル外湯券「ゆめぱ」は、顧客の行動を収集できるだけではなく、携帯電話やスマホに登録すると財布代わりに機能し、現金を持たずに買い物や温泉めぐりが楽しめます。

定量化できる顧客データを収集したことから、課題の発見や意思決定の迅速化につながっています。

参考:Salesforce|ビッグデータ活用の本質とその進め方 ~城崎温泉の事例にみるデータ活用のポイント~

コニカミノルタジャパン株式会社

コニカミノルタジャパン株式会社は、コニカミノルタグループの製品を販売する会社です。

項目 説明
課題 ・既存システムはデータ収集と分析が思うようにできていなかった
・高機能なシステムは使いにくく、使える人が限定的だった
・機能の追加や修正で工数やコストが増大していた
施策 ・顧客データの活用基盤を再構築した
・利用者の意見を盛り込み、機能や情報を絞り込んだ
・システムをクラウド化し、内製化させた
成果 ・営業が活用しやすい顧客情報基盤を構築できた
・内製化したことで、営業部の要求に対応できる協業体制が確立された
・情報の一元管理が可能になった
・顧客データを可視化し、迅速かつ柔軟なシステム運用ができるようになった

 

ポイント

同社では、顧客情報の収集システムは存在していたものの、機能性の問題から十分に活用できておらず、機能追加や修正にコストがかかっていました。

そこで、現場の意見を聞いて顧客データ収集のシステムを再構築したことで、営業活動にも役立てられるようになりました。

既存システムがあっても上手く機能していない場合は、システム構成や運用体制の見直しが有用かもしれません。

参考:アシスト|「顧客起点」の情報活用で営業力を強化。円滑なセールスサイクルによりCXが向上し、カスタマーサクセスを実現!

顧客データ活用”成功”のためのポイント

顧客データを活用して成功を収めるためには、データの質の確保や目標設定など、いくつかの重要なポイントを押さえる必要があります。

データ活用の目的・目標を明確にする

顧客データの活用において最も重要なステップは、明確な目的と目標の設定です。

顧客データを集めて分析するのはなぜか(目的)、どのビジネス課題をどの程度解決したいのか(目標)、具体的に定めることが成功への第一歩となります。

例えば、売上の向上、顧客ロイヤルティの強化、新規顧客の獲得など、具体的な数字や期限も含めて目標を設定することで、収集すべきデータが明確になり、データ分析の方向性も明確になります。

データの質の確保

高品質なデータがなければ、いくら高度な分析手法を駆使しても信頼性のある結果は得られません。

データの質を確保するためには、クレンジング作業でデータの重複やエラーを取り除き、正確で一貫性のあるデータを維持することが重要です。

また、アンケートやフォームの設計においても、質問内容をわかりやすく、選択肢を適切に設定することで、顧客から正確な情報を得ることが可能になります。

さらに、定期的なデータのメンテナンスやクリーニングを行い、古くなったデータや不正確なデータを排除することも、データの質を維持するために欠かせません。

質の高いデータを元にすることで、より精度の高い分析が可能となり、正確な予測や意思決定が実現できます。

技術依存のバランスを保つ

データ活用が進む中で、AIや高度な分析ツールへの依存が増加していますが、その一方で技術に頼りすぎるリスクも存在します。そのため、AIを活用する際には、人間が意思決定をするという姿勢が大切です。

AIはデータ分析において強力なツールですが、人間の視点で結果の妥当性を確認し、適切なデータかどうか確認することで、役立つデータとして活用できます。

例えば、レコメンドシステムが提示する商品の選択肢が顧客の嗜好と一致していないということが起きた場合を考えてみましょう。

この場合は、データの偏りやモデルの学習が不十分である可能性があります。データをただ鵜呑みにするのではなく、関係者全員が顧客の意見や市場動向を考慮してモデルを修正することで、より効果的な施策が実現できます。

技術に過度に依存せず、常に人間が意思決定の主導権を持つことで、顧客データの活用精度と信頼性を高めることができます。

パーソナライゼーションとデータセキュリティ

パーソナライゼーションは顧客エンゲージメントを高める有力な手段です。しかし、過度に個人情報を利用した施策はプライバシー侵害につながるリスクがあります。

顧客の購買履歴や行動データを基に、最適なタイミングでパーソナライズされたオファーやレコメンドを行うことは重要ですが、顧客に不快感を与えない範囲で実施する必要があります。

適切なアプローチでデータを活用し、透明性のある説明やユーザーが広告を拒否できるようにするなど、顧客の信頼性を維持するための施策が重要です。

また、顧客データを扱う上で避けて通れないのがデータセキュリティの確保です。データ漏洩や不正アクセスによる情報流出は、企業の信用失墜や顧客離れを招く深刻な事態を引き起こします。

最新のセキュリティ対策や暗号化技術を導入し、データの管理を徹底することで、顧客情報の安全性を確保する必要があります。

社内のデータに関する取り扱いに関して、ルールやガイドラインの徹底をすることも大切です。

まとめ

顧客データを適切に活用することで、会社の課題やこれまで見つけられなかったニーズの発見に貢献します。

ただし、顧客データを活用して成果を出すためには最終成果物を人の目でチェックするなどの運用体制を構築し、全てを自動化したシステム任せにしない姿勢が大切です。

また、顧客データを最大限活用するためには、会社の課題を踏まえ、どのようなデータが必要になるか、目的を定めておくと、活用しやすくなります。

顧客データをどう活用すべきかお悩みの方はぜひ参考にしてください。

この記事を書いた人

西潤史郎(監修)/データ分析基盤.com編集部

uruos.net/Submarine LLC

データエンジニア/Editor Team