「データ活用基盤」とは?自社にも必要なもの?
デジタル化推進のプロジェクトに入れられたが、全く知識が無くて困っている。
自社もデータ活用に取り組みたいが、何をどう整備すればいいかわからない・・・。

昨今のDX(デジタルトランスフォーメーション)推進の流れを受け、自社もデータ活用体制の構築に取り組みたいとお考えの企業も増えていることかと思います。そのような方に、本記事ではデータ活用基盤の基礎知識をわかりやすく解説いたします。

  • データ活用基盤がなぜ必要か
  • データ活用基盤を持たないことのデメリット
  • データ活用基盤の構成要素4つ
  • データ活用基盤を構築する方法

これからデータ活用に向けた環境構築をお考えの方は、ぜひ本記事を基礎知識として、また理解にお役立てください。

 

西潤史郎(監修)/データ分析基盤.com編集部

uruos.net/Submarine LLC

データエンジニア/Editor Team

データ活用基盤とは?

データ活用基盤とは、企業や組織がデータを一元的に管理、分析するためのプラットフォームです。データが存在していても、未加工の状態(いわゆる生データ)では重複や欠損があり、分析や可視化に活かすことが難しい場合があります。

データ活用基盤は、収集したデータを統合および加工することで、大量のデータを効率的に処理したり、グラフやチャートを通じて可視化したりすることを容易にするものです。

データ活用基盤の必要性

企業が市場のニーズを把握するためには、大量のデータを迅速かつ正確に分析することが必要不可欠です。いわゆるビッグデータを組織的に処理することが求められます。この作業を人力で行うのは非常に困難です。膨大な時間と労力を費やしても、刻々と変化する市場のニーズをリアルタイムで捉えることは難しいでしょう。

データ活用基盤は、散在する膨大なデータを収集し、保管や蓄積するといった一元管理を可能にするインフラです。データの一貫性や高いアクセス性などのデータ活用基盤が持つ特徴がこれらのメリットを提供します。データの品質を保ち、拡張性の高い利用ができる点も、データ活用基盤が必要といわれる理由です。

また近年、AIの進歩が大きな関心を集めています。機械学習や自動化の効果を最大限に引き出すためには、企業におけるデータ管理体制が整っていることが不可欠です。

あらゆる物事のデジタル化が加速度的に進む現代において、企業のデータ利活用能力はビジネス変革の力に直結するとも言えるでしょう。

データ活用基盤を”持たない”組織が直面しうる課題

逆に、データ活用基盤を持たずにデータ活用に取り組むことを考えてみましょう。

人力でデータ分析を行う場合、とかく人の問題が発生します。都度、データの集計や加工、分析を人が行うため非常に煩雑で、そこに莫大な労力が必要になります。たとえ同一のデータだったとしても、表記揺れなどによって別のデータと認識することもあるでしょう。このような作業は、異なる人が代わる代わる行うよりも同一人が行ったほうが効率がよく、結果として業務の属人化は避けられません。

Excelやスプレッドシートなどの表計算ツールはデータ量が少ない場合は非常に便利ですが、大量のデータの統合や分析を行うには限界があり、時間もかかります。部署が複数ある場合は、部署ごと、チャネルごとに、似たようなデータを収集してしまうこともあるでしょう。

結果としてバラバラにデータ管理を行うこと(サイロ化)になり、部署間および全社を横断したデータの利活用は難しい状況になります。もちろん、人が行う仕事にミスはつきものですから、エラーの発生も避けられません。

このように、データ活用基盤がない状態では、情報が分散してしまいます。データの重複や情報の不一致、アクセスの遅延が発生し、意思決定プロセスにもよくない影響を与えます。

その点、データ活用基盤は、蓄積されたデータから価値を引き出し、組織全体の効率的な運用をサポートしてくれます。現代のビジネス環境において、重要な役割を果たすことは言うまでもないでしょう。

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ETLとデータ活用基盤の違い

データ分析ツールなどに関連して、「ETL」という言葉を聞いたことがあるかもしれません。

ETLは「抽出(Extract)、変換(Transform)、ロード(Load)」の略で、データを蓄積する際のプロセスを指します。

  • 抽出(Extract): データを元のデータソース(例えば、データベース、CRMシステム、オンラインのAPIなど)から抽出すること。
  • 変換(Transform): 抽出したデータを分析や報告に適した形式に変換すること。クレンジング、正規化、集約、データの加工などが含まれる。
  • ロード(Load): 変換したデータを保存システムに格納すること。

ETLはデータ活用基盤の一部であり、データが分析用のストレージに適切に準備されるための具体的なプロセス・ツールです。一方、データ活用基盤は単一の技術やツールではなく、データを収集して分析するための全体的なフレームワークや環境など、包括的なソリューションを指します。

データ活用基盤自体はより広範な概念であり、その一部にETLも含まれます。

データ活用基盤を構成する4つの要素

データ活用基盤は、収集、加工、蓄積、分析の4つの要素で構成されています。

1. 収集

データ収集は、データ活用基盤における最初のステップです。アクセスログやSNSなどから得られるビッグデータや、社内で管理するCRM、IoTデバイスから取得したリアルタイムデータなど、あらゆるデータソースからデータを収集します。

2. 加工

データが収集された後、生データをビジネスに有用な形に加工していきます。生データから不要な部分を削除するクレンジング、統合などの加工を施し、分析や可視化に適した形にデータの形式を整えます。また、データフローの効率を向上させることで、組織内におけるデータの移行や連携がスムーズになるでしょう。

ここまでがデータ活用基盤の初期ステップです。収集と加工はどんなデータ活用基盤においても不可欠であり、その後の有効性を大きく左右します。

3. 蓄積

蓄積は、収集されたデータを整理し、効果的に管理するためのステップです。データレイクにあった未加工のデータは、加工することで、データウェアハウス(DWH)やデータマートに格納されていきます。この格納場所が変わる一連の流れが「蓄積」であり、蓄積されたデータは将来の分析に役立つ時を待つことになります。

データレイク:生データ

データレイク(data lake)は、生データを形式を変えずに貯める大規模なストレージシステムです。データの湖をイメージするとわかりやすいでしょう。

データレイクには、構造化されていないデータや半構造化データなど、あらゆる形式のデータを格納できます。データサイエンティストやアナリストなどは、洞察を得るために生データを用いる場合があります。形式を変えずに保管できるデータレイクは、そのような場面で非常に重宝されます。

データレイクを構築する代表的なサービス

データウェアハウス(DWH):分析しやすく加工したデータ

データウェアハウスは、加工したデータを集約して分析しやすい形で保管するシステムです。ETLプロセスを通じてデータを抽出、変換、ロードし、高度に構造化された形式で時系列順に保存します。データレイクとは異なり、データが分析に適した構造に加工されているため、効率的なクエリ実行やレポーティングが可能になります。

データマート:用途別に抽出・分類したデータ

データマート(data mart)は特定のビジネスユニットや部門に特化したデータウェアハウスの一部です。用途や部門ごとに最適化されたデータを抽出し、分類して保管します。データマートには、目当てのデータを容易に特定し取り出せるというメリットがあり、特定のビジネスニーズへの迅速な対応や、関連するデータ分析が可能になります。

4. 分析・可視化

データの収集と加工、蓄積が完了したら、次はそのデータを分析し、利用しやすい情報に変換していきます。

BIツール

ビジネスインテリジェンス(BI)ツールは、蓄積されたデータを活用して洞察を得るためのツールです。BIツールを使うことで、ビッグデータの統合、必要な情報の抽出や分析、データの可視化が可能になります。

企業にとって、全員が一貫したデータをもとに戦略を立てることは非常に重要です。BIツールは、グラフやチャートなど、データを誰がみてもわかりやすい形に可視化できるため、全員が共通の認識でデータを扱えるようになります。ダッシュボードやレポート機能を使用することで、より効率的でデータドリブンな意思決定を促すこともできるでしょう。

結果として、企業は市場の動向を把握し、より優位な形で戦略を実行に移すことができます。

代表的なBIツール

データ活用基盤は、これらの段階を通じて組織にとって不可欠な資産となっていきます。うまく活用すれば、企業におけるビジネスプロセスの効率化や市場理解の深化、戦略的な意思決定の促進など、多くの効果を実感できるでしょう。

データ活用基盤の構築方法5ステップ

データ活用基盤の構築は、企業の競争力を強化するための重要なプロセスです。ここでは、より効果的なデータ活用基盤を構築する方法を5つのステップに分けて解説します。

1. プランニング

プランニングは、データ活用基盤の構築において最も重要なステップです。プランニングでは、おもに3つの作業を行います。

プロジェクトチームの構築

データ活用基盤の構築には、多岐にわたる専門知識が必要です。データサイエンティスト、エンジニア、プロジェクトマネージャーなど、異なるスキルを持つ人材でプロジェクトチームを構成するのが好ましいでしょう。

また、DX関連部署だけでなく、実際に現場でデータを扱うことになる各部署(企画戦略や営業など)のメンバーや経営陣もチームメンバーに加え、バックアップを得ることも大切です。全員が同じ方向を向いて作業を行うために、チーム全体の動きを一元管理するよう努めましょう。

課題や目的の整理

次に、課題や目的を明確にしていきます。何のためにデータ活用基盤を導入するのか、現状のデータ活用にどのような問題があるのかを洗い出しましょう。この作業では、現時点でのデータ活用で困っていることがないか、社内でのヒヤリングも有効です。

この作業が曖昧なままプロジェクトを進めると、せっかくデータ活用基盤を構築しても、目的に沿わないものとなり、結局活用されないという事態に陥る可能性があります。

ビジネスにおいては、プロジェクトの目的と企業のビジネスニーズを明確にすることが重要です。このステップは多少時間をかけても、明確で確実な結論を導き出しましょう。

課題や目的が定まったら、データレイク、データウェアハウス、データマートなどのうち、どの技術が自社に適しているかを判断します。この段階で、オンプレミス環境での構築が適しているか、あるいはクラウドベースでの環境構築にするかも検討しましょう。さらに、データ収集の要件やデータの種類、使用するデータ分析のツールを決定していきます。

スケジュールの設定

プロジェクトの全体的なワークフローやタイムラインを作成し、各ステップの完了期限を明確にします。複数のメンバーでプロジェクトを進める以上、それぞれが期限内に目標を達成するという意識を持つことが重要です。スケジュールは実現可能なもので、かつ全員が共有できる形で作成しましょう。

プランニングは、データ活用基盤プロジェクトの方向性を定め、全体的な枠組みを構築するフェーズです。正確なプランニングは、プロジェクトのリスクを最小限に抑え、目標に向かって進むための効率的な道筋を見出します。次のステップでは、具体的な技術の選定やデータ管理のプロセスを解説します。

2. 要件定義を行う

このステップでは、データの種類、収集方法、使用目的など、プロジェクトの具体的なニーズを明確にします。具体的には、プランニングで導き出した結論に沿って、これから構築しようとしているデータ活用基盤に必要な要件を定めていきます。

たとえば、ビッグデータや生データの取り扱いにどのような基準を設けてどのようなデータを取り出すか、データソースの統合やデータを保管するためのデータウェアハウス、データレイクをどのようなケースで使用するか、などを検討しましょう。

併せて、データのセキュリティやプライバシー、拡張性に求める要件も明確にしておくことが大切です。

3. データ活用基盤の設計

次に、要件定義を元にしてデータ活用基盤の設計を行います。このステップは、実際に構築されるデータ活用基盤の青写真となるものです。設計のポイントを押さえて、より効果的なデータ活用基盤の土台をつくりましょう。

設計のポイント1. ユースケースの策定

まず、ユースケースを洗い出します。ユースケースとは、実際にどのようなシーンで、どのような目的のためにデータが使われるのかという具体例です。ユースケースの把握は、データの効率的な利用や、複雑なデータ分析にも対応可能な設計を考える上でのスタートポイントとなります。

設計のポイント2. データフローの設計

ユースケースを洗い出したら、次はそれに基づいてデータフロー(データの流れ)を設計します。データがどのように収集され、処理され、保管・分析されるかを明確に可視化し定義します。データフローが不明確なままでは、自動化が困難になり、手作業に頼らざるを得なくなります。その結果、時間やコストの面で非効率的になるだけでなく、ミスが生じるリスクも高まります。安定したシステム運用を実現するために、データフローをしっかりと設計しましょう。

設計のポイント3. データスキーマの定義

設計の仕上げは、データスキーマの定義です。データスキーマはデータベースの設計図であり、どのデータをどのように格納するかを決定することになります。データウェアハウスでは、定義されたデータスキーマに基づいてデータが構造化され、効率的に保管・管理されます。ここで注意しなければならないのは、データスキーマが複雑になりすぎると管理コストも増加するということです。システム担当者はデータスキーマの定義が妥当であり、過度に複雑化していないかを確認しながら作業を進めましょう。

これらの設計ポイントを適切に取り入れたデータ活用基盤は、組織内のデータを最大限に活用し、迅速かつ正確な判断を下すための強力なツールとなります。次のステップでは、いよいよデータ活用基盤を構築していきます。

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>> データ分析基盤設計のポイント:DX担当者が知っておくべき基礎知識
>> データ分析基盤のアーキテクチャとは?構成要素別のポイント・主なパターンを解説

4. 実際に構築する

データ活用基盤の構築は、設計のステップで定義したアーキテクチャに基づいて行われます。データレイク、データウェアハウス、データマートなどの主要な構成要素を組み込み、必要なハードウェアの設置やソフトウェアのインストールを行ってデータベースを構成していきます。

また、ETLプロセスによるデータの抽出、変換、ロードといった、データの一元管理と統合を実現するためのインフラの準備や、データのセキュリティのための機構も設定して、データ活用基盤が構築されます。

5. 運用を行う

構築が完了したら、データ活用基盤を運用するフェーズに入ります。データ活用基盤は、BIツールを活用したデータの可視化や、ダッシュボードを通じた経営層に重要なビジネスインサイトの提供など、さまざまな面で運用されます。運用時に不具合が生じないよう、継続的なモニタリングとメンテナンスは不可欠です。データベースのパフォーマンスを監視し、データの整合性とアクセスの効率を確保するために定期的なアセスメントを行います。

市場動向は刻々と変化していくため、状況に応じて常にアップデートしていくことも大切です。システムの拡張性を考慮して、将来的な事業拡大やデータ量の増加に対応できるよう、メンテナンスは継続的に行いましょう。

データ活用基盤を構築して運用することは、組織にとって多くのメリットをもたらします。

  • データドリブンな意思決定の促進
  • 市場動向のリアルタイムな把握
  • ビジネス戦略の迅速な調整 など

データ活用基盤というプラットフォームが、組織のデータ資産を最大限に活用して意思決定の精度を高め、持続可能な競争優位を推進するための鍵となります。

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>> データ分析基盤を効果的に運用するには?ポイントや参考事例を紹介

不安な場合は外部の専門家に相談する

データ活用基盤の構築は複雑なステップを踏む必要があり、専門的な知識や最新の知見が求められます。不安がある場合は、データレイク、データウェアハウス(DWH)、ETLプロセスなどの専門知識を持つ外部のエンジニアやコンサルタントへの相談を検討しましょう。

外部の専門家に相談することで、設計はもちろん、課題の整理から一緒に考え、検討し、結論を導き出すまでのサポートを依頼できます。

また、外部からの視点は、データベースの設計における最適化や、将来のビジネスニーズに対応するための拡張性も考慮した解決策をもたらします。今後のビジネスの成長においても重要な役割を担ってくれるでしょう。

まとめ

日々大量のデータ流通が行われている現代においては、データをいかに活用できるかがビジネス成長の鍵を握っていると言っても過言ではありません。「手作業でのデータ処理には限界がきている」と感じたら、データ活用基盤の構築を検討する段階に来ていると考えましょう。
一方で、データ活用基盤の構築は簡単なものではありません。多くの専門的な知識はもちろん、現時点でデータを取り扱っているスタッフの声も重要な要素となります。まずは今、データの活用でどんな悩みを抱えているかを、専門家に相談することから始めましょう。

この記事を書いた人

西潤史郎(監修)/データ分析基盤.com編集部

uruos.net/Submarine LLC

データエンジニア/Editor Team