ビッグテック最前線.com / 編集部

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AIを使い始めて、資料づくりやメールの下書きが速くなった。そう実感している方は多いはずです。では、速くなった分だけ仕事は楽になったでしょうか。評価や給料は変わったでしょうか。

マッキンゼーが2026年8月に公表した年次調査「The state of AI in 2026: On the road to ROI」は、この素朴な疑問に数字で答えています(出典: https://www.mckinsey.com/capabilities/quantumblack/our-insights/the-state-of-ai)。AIで自分の生産性が上がったと答えた人は80%にのぼる一方、AIが会社の利益に貢献したと答えたのは37%で、前年からほとんど動いていません。本稿では、このずれがなぜ生まれ、そのしわ寄せがどこに向かっているのかを、調査の数字から読み解きます。

5人に4人が速くなった。それでも利益は動かない

この調査は、2026年5月から6月にかけて97か国の1,719人にオンラインで聞いたものです。まず目を引くのは、個人の実感の強さです。AIで自分の生産性が上がったと答えた人は80%。経営層で80%、中間管理職で81%、現場の担当者で76%と、役職による差はほとんどありません。半数は、AIでより良い判断ができるようになったとも答えています。

ところが、会社の数字は動いていません。AIが本業の利益であるEBIT(利息や税金を差し引く前の利益で、本業の稼ぐ力を示す指標)に貢献したと答えたのは37%で、前年とほぼ同じです。AIを一部の部署で試す段階から全社に広げる段階に進んだ会社は、38%から44%に増えています。導入は進み、個人は速くなったのに、利益だけが横ばいのままなのです。

マッキンゼーでAI部門を率いるDan Tinkoff氏は、今年目立ったのは個人の成果と会社の成果のギャップだと述べています。5人に4人が速くなった分は、どこへ消えたのでしょうか。

差を生んだのは仕事の流れの作り直し

調査が手がかりにしているのは、AIで利益の5%以上を得て、その価値を大きいと評価した、ごく一部の会社です。全体の約6%で、この割合も前年から変わっていません。

この上位6%とそれ以外の会社を分けている最大の違いは、仕事の流れ(ワークフロー)を根本から作り直したかどうかでした。上位の会社では4分の3近くが作り直しており、前年の55%からさらに増えています。それ以外の会社では、作り直したのは4分の1にとどまります。

つまり多くの会社は、いままでの手順のまま、そこにAIを足して少し速く回しているということです。手順が変わらなければ、浮いた時間には次の仕事が入ってくるだけで、利益にはなりません。個人が速くなっても成果が会社に届かないのは、個人の腕の問題ではなく、流れの側の問題だと考えられます。

上位6%の会社は何が違うのか

上位の会社は、AIに求めるものも違います。効率化を狙う割合は、上位の会社が78%、その他が82%とほぼ同じです。違いが出るのは、売上を伸ばす成長(74%対47%)と、新しい事業や仕組みを生み出す価値の創出(65%対49%)でした。コスト削減だけでなく、仕事そのものを変える前提でAIを使っているのです。

加えて、経営層がAIに本気で関わっていると答える割合も、AIの効果を測る仕組みを持っている割合も、上位の会社はその他の約2倍です。マッキンゼーのTara Balakrishnan氏は、導入が技術の進歩より遅れがちな理由として、「組織が変化を吸収する力」が制約になっている点を挙げています。

しわ寄せは中間管理職と現場に来ていた

速くなった分が利益にならないとき、その分はどこへ行くのか。調査には、それを示す数字があります。AIの悪い影響を1つ以上感じている人は、経営層と上級管理職では31%ですが、中間管理職と現場の担当者では47%にのぼります。

中間管理職に絞ると、考える力が落ちたと感じる人が20%、キャリアの先行きに不安を感じる人が19%、仕事が増えるプレッシャーを感じる人が18%でした。AIの出力が多すぎて追いきれない、頭が疲れると答えた人も、それぞれ14%います。経営層では順に9%、6%、12%、11%、7%で、キャリア不安には約3倍の開きがあります。上からはAIを使えと言われ、下からはAIで作った資料が倍になって上がってくる。そうした板挟みが、数字に表れていると読めます。

同じ中間管理職の中で起きている二極化

ただし、中間管理職は苦しいだけの層ではありません。AIで考えがはっきりしたと答えた割合は54%で、全役職の中で最も高くなっています(経営層は39%)。考える力が落ちたと感じる人も、頭が冴えたと感じる人も、どちらも中間管理職が一番多いのです。

AIの影響が良くも悪くも一番強く出ている層であり、変化を最も受け止めている層だからこそ、どこで仕事が詰まり、どこで人が確認すべきかを誰よりも具体的に知っている立場でもあります。なお、中間管理職の回答者は217人と少なく、回答者全体では経営層が多い点には注意が必要です。

AIリストラの予想は半分外れた

雇用については、答え合わせができます。前年の調査では、32%が翌年にAIで人員が減ると予想していました。実際にこの1年でAIが人員減につながったと答えたのは14%で、予想の半分以下です。3分の2は、AIによる人員の変化はほとんどなかったと答えています。

それでも、今年の予想はさらに厳しくなっています。来年の人員減を予想する人は39%に増え、43%は変化なしと見ています。部門別では、サービス運営(44%)、仕入れから配送までを担うサプライチェーン(38%)、ソフトウェア開発(36%)で減少の予想が多くなっています。

外れた理由が、次に当たる条件になる

なぜ去年の予想は外れたのでしょうか。レポート自体は理由を書いていませんが、ここまでの数字を並べると一つの見立てが立ちます。人を減らせるほど仕事の流れを作り直せた会社が、まだ4社に1社しかなかったからではないか、というものです。

もしそうなら、作り直しが進むほど予想は当たり始めます。外れた理由が、そのまま次に当たる条件になっているのです。だからこそ、作り直される側で待つより、作り直す側に回るほうが自分のキャリアを守る近道になります。そして作り直しに必要なのは、新しい技術の知識よりも、いまの仕事の手順をよく知っていることです。

もう一つの変化:ソフトを買わずに作る会社

本題からは少し外れますが、調査には会社のお金の使い方の変化も出ています。32%の会社が、プログラムを自動で書くAIを使えば自社で作れるからと、ソフトウェアを1つ以上買わないことにしました。一方で、AIの運用コスト(AIが処理する文字量に応じて課金されるトークン代など)が利用を制約していると答えた会社は約20%あり、それでも60%は来年AI投資を増やす予定です。AIは仕事の速さだけでなく、何を買い、何を自分で作るかという判断も変え始めています。

いま言えることと、これからの見通し

事実として言えるのは、AIは個人を速くしたものの、それだけでは会社の成果にならない、ということです。その差を生んでいるのは仕事の流れの作り直しで、作り直しが進まない間は、負担が中間管理職と現場に溜まりやすくなっています。

筆者の見立ては、速さを成果に変えるのはツールではなく手順の作り直しであり、その材料を一番持っているのは現場だ、というものです。見通しは条件付きです。作り直しが進めば、会社の利益が動くと同時に、人員減の予想も当たり始めるかもしれません。進まなければ、しわ寄せが続くかもしれません。来年の同じ調査で、仕事の流れを作り直した会社の割合が4分の1からどれだけ動くかが、注目すべき指標になります。

まとめ

今回の調査が示したのは、次の3点です。第一に、AIで個人は確実に速くなっているものの、会社の利益に貢献したと答えた割合は37%で横ばいのままです。第二に、利益を出している上位6%の会社と他社を分けているのは、ツールの有無ではなく、仕事の流れを根本から作り直したかどうかです。第三に、作り直しが進まない間、そのしわ寄せは中間管理職と現場に集まっており、来年の人員減を予想する声も39%に増えています。

AIで速くなったのに報われないと感じているなら、それはあなたの腕のせいではありません。仕事の流れを作り直せるのは、現場を知るあなたです。あなたの職場で、AIで浮いた時間がどこに消えているのか、どの手順を変えればそれが成果に残るのか。まずはそこから考えてみてはいかがでしょうか。

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