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生成AIを導入して、資料づくりやメールの返信が速くなった。そう実感している方は多いのではないでしょうか。では、その速くなった分は、会社の利益として数字に表れているでしょうか。
マッキンゼーの AI 専門部隊 QuantumBlack は2026年8月25日、世界の企業の AI 活用を追う年次調査の最新版を公表しました(出典: https://www.mckinsey.com/capabilities/quantumblack/our-insights/the-state-of-ai)。回答者の8割が AI で自分の生産性が上がったと答える一方、AI が利益に貢献したと答えた会社は37%で、前年からほぼ横ばいでした。AI で本当に大きな利益を得ている会社は、わずか6%にとどまります。
本稿では、この調査の数字をたどりながら、速くなった時間がどこへ消えているのか、そして儲けている6%の会社が何をしていたのかを読み解きます。結論を先に言えば、差を生んでいたのは導入したツールでも予算の大きさでもなく、仕事の流れを作り直したかどうかでした。
AIは広がったのに、利益は動かなかった
今回の調査「The state of AI in 2026: On the road to ROI」は、世界97か国の1,719人に、自社の AI の使い方を尋ねたものです。調査期間は2026年5月から6月で、回答者の36%は年商10億ドル(約1,500億円)を超える企業に勤めています。
まず目に入るのは、AI が試験導入の段階を抜けつつあることです。少なくとも1つの部門で AI を日常的に使っている会社は89%でした。そのうえで、AI を会社全体の規模で展開している会社は、1年前の38%から44%に増えています。3部門以上で使っている会社も51%から56%に広がりました。
とくに勢いがあるのは大企業です。指示を受けると何段階もの作業を自分で進める AI エージェントを全社で展開している大企業は、1年で27%から40%に増えました。一方、年商10億ドル未満の会社では22%のまま横ばいです。
8割が速くなったのに、利益貢献は37%のまま
働く人の実感も、はっきり出ています。80%が「AI で自分の生産性が上がった」と答え、50%が「より良い判断ができるようになった」と答えました。役職による差はほとんどなく、経営層でも現場でも、5人に4人が速くなったと感じています。
ところが、会社の数字は動いていません。AI が EBIT(利払い前・税引き前利益。本業の稼ぐ力に近い指標)に何らかの形で貢献したと答えた会社は37%で、前年とほぼ同じです。AI による利益が EBIT の5%以上を占め、かつ大きな価値があったと答えた、いわば勝ち組の会社は全体の約6%で、これも前年から横ばいでした。17社に1社という計算になります。
調査を率いたマッキンゼーのダン・ティンコフ氏は、今年最も目を引いたのは個人の成果と会社全体の成果のギャップだと述べています。AI は広がり、個人は速くなりました。それでも利益は動いていません。今回の調査の核心は、このねじれにあります。
速くなった時間は、どこへ消えたのか
個人が速くなっているのに会社の利益が増えないのなら、浮いた時間はどこかで消えているはずです。調査はその行き先を直接示してはいませんが、手がかりになる数字があります。
中間管理職の18%が、AI によって、より多くの仕事を引き受けるプレッシャーが増えたと答えています。経営トップ層では12%です。資料が早く作れるようになれば資料の数が増え、返信が早くなれば依頼が増えます。皆さんの職場でも、資料が早くできるようになった分、資料の数が増えていないでしょうか。仕事の流れそのものを変えないまま AI を足すと、時短は利益になる前に次の仕事に吸い込まれてしまいます。これは数字から読み取れる一つの見方です。
部門ごとに見れば、成果が出ているところもあります。コスト削減はサプライチェーン、サービス運用、製造で、売上の増加はマーケティング・営業、製品開発、ソフトウェア開発で多く報告されています。成果がないのではなく、会社全体の利益に積み上がるところまで届いていない、と読むのが正確でしょう。
AI の効果を何時間浮いたかで測っている会社は多いはずです。しかし、利益に効くのは浮いた時間ではなく、なくなった工程のほうです。浮いた30分で、どの作業をなくすのか。そこまで決めて初めて、時短は会社の数字になります。
AIで人が減るという予想は、半分も当たらなかった
AI の話になると必ず出てくるのが、人が減るという予想です。昨年の同じ調査では、32%が来年は AI で人員が減ると予想していました。ところが、この1年で実際に減ったと答えたのは14%です。予想の半分以下で、3分の2の会社はほぼ変化なしでした。少しほっとする数字ではないでしょうか。
それでも、予想は強まっています。今年は39%が来年は人員が減ると答えました。全体でキャリアに不安を感じている人は13%にとどまりますが、会社の側の、人を減らせるはずだという期待は膨らんでいるわけです。
負担が集まっているのは中間管理職
人の数より先に変わっているのは、負担のかかり方です。AI によるストレスや疲れ、考える力の低下、キャリア不安といった負の影響を1つ以上経験した人は、経営層・上級管理職で31%、中間管理職と現場の担当者では47%でした。キャリア不安は経営トップで6%、中間管理職で19%です。
一方で、中間管理職の54%は、AI で頭がすっきり考えられるようになったとも答えています。恩恵も負担も、最も集中しているのが中間層です。
調査の筆者の一人、タラ・バラクリシュナン氏は、制約になりつつあるのは技術よりも、組織が変化を吸収する力のほうだと指摘しています。技術はもう足りています。足りないのは、変化を現場に通す力です。そして、その力を実際に握っているのは、経営の方針と現場の段取りをつないでいる中間層です。人を減らしても、仕事の流れは変わりません。流れを変えられるのは、現場を知っている人です。
儲けている6%は、何が違ったのか
効率化は、むしろそれ以外の会社のほうが狙っていた
意外なのは、効率化(コスト削減)を AI の目的にしている割合です。勝ち組は78%、それ以外の会社は82%でした。差がないどころか、それ以外の会社のほうが少し高いのです。
差が開いているのは別のところでした。AI で売上を伸ばすことを狙っている割合は74%対47%、新しい事業やビジネスモデルを狙う割合も65%対49%です。3年以内に AI で事業を根本から変えるつもりの割合は、勝ち組がそれ以外の3.3倍でした。
そして最も大きな差が、業務の流れの作り直しです。AI をきっかけに業務フローを根本から作り直した会社は、勝ち組で約4分の3に上り、前年の55%からさらに増えています。それ以外の会社では約4分の1にとどまります。経営陣が本気で AI に関わっているか、効果を測る仕組みがあるかという点でも、勝ち組はそれ以外の約2倍でした。
もちろん、勝ち組はお金もかけています。IT 予算の15%超を AI に使う割合は2倍超で、自社でソフトウェアを作れるからとパッケージ製品の購入を見送った割合も約半数(それ以外は31%)です。それでもバラクリシュナン氏は、勝ち組が AI により多くのお金を使っているのは確かだが、その優位は予算では説明できないと述べています。勝ち組は、AI を既存の仕事の上に載せるのではなく、仕事の流れのほうを AI に合わせて組み替えていたのです。
自分の会社を確かめる11のチェック
調査が勝ち組の特徴として挙げた11項目を自社に当てはめてみると、どこから手を付けるべきかが見えてきます。
- 全社を変える目的で AI を使うつもりがある
- AI の出力を人が確認すべき場面を決めている
- AI の利用料(トークン代・計算資源)を管理している
- AI を前提にした人員計画を作った
- AI の活用を人事評価に反映している
- AI に合わせて業務フローを根本から作り直した
- AI の展開を進める権限を持った推進室がある
- 社内データを AI が扱える形に整理している
- 経営陣が AI に本気で関わり、手本になっている
- IT 予算の15%超を AI に使っている
- AI の効果を数字で測る仕組みがある
勝ち組との差が特に大きいのは、業務フローの作り直し、全社を変える意欲、経営陣の本気度の3つです。予算の項目より先に、この3つを確かめる価値があります。
いま言えること、これから見ておくこと
調査から事実として言えるのは、AI を入れること自体では、もう差がつかないということです。使う会社は増え、個人は速くなりました。それでも利益に効いた会社の割合は動かず、差を生んでいたのは、ツールの数でも予算の大きさでもなく、仕事の流れを作り直したかどうかでした。
ここから先は筆者の見立てです。流れを作り直すには、誰が、どの順番で、どこで確認しながら仕事を回しているかを知っている人が欠かせません。それは新しい技術を覚えた人ではなく、これまで自分の持ち場を回してきた人です。
これから見ておきたい指標は二つあります。一つは、来年の人員減を予想する39%の会社が、実際に人を減らすのか、それとも流れの作り直しに向かうのかです。もう一つは AI の運用コストです。すでに5社に1社が、トークン代(AI の利用量に応じた従量課金)などを理由に AI の利用を絞っています。マッキンゼーのマイケル・チュイ氏は、トークンの単価は下がっても、使う量がそれ以上の速さで増えていると指摘しています。コストが重くなるなかで、6%という数字が増えるのか、それとも動かないままなのか。来年の調査は、そこが焦点になりそうです。
まとめ
マッキンゼーの最新調査が浮き彫りにしたのは、AI の普及と会社の利益のあいだにある大きな隔たりです。第一に、全社展開は44%に広がり、8割の人が速くなったと感じている一方で、利益に貢献した会社は37%、大きな利益を得た会社は約6%のまま動いていません。第二に、速くなった時間は、仕事の流れが変わらないまま追加の業務に吸収されやすく、その負担は中間管理職と現場に集まっています。第三に、儲けている6%は効率化よりも成長を狙い、その約4分の3が業務フローを根本から作り直していました。差は予算でも最先端の技術でもありませんでした。
AI の導入が一巡したいま問われているのは、どのツールを入れるかではなく、仕事の流れをどう組み替えるかです。そしてその組み替えは、現場の段取りを知る管理職や担当者だからこそできることでもあります。あなたの持ち場で、AI で浮いた時間はいまどこに消えているでしょうか。まずは一つの業務を取り上げ、誰が、どの順で、どこで確認しているかを書き出し、AI を前提になくせる工程がないかを確かめるところから始めてみてはいかがでしょうか。
参考情報
- The state of AI in 2026: On the road to ROI(McKinsey) (https://www.mckinsey.com/capabilities/quantumblack/our-insights/the-state-of-ai)
- The state of AI in 2026: On the road to ROI(PDF版レポート) (https://www.mckinsey.com/~/media/mckinsey/business%20functions/quantumblack/our%20insights/the%20state%20of%20ai/the-state-of-ai-in-2026-on-the-road-to-roi.pdf)
- The state of AI in 2025: Agents, innovation, and transformation(McKinsey) (https://www.mcksky.com/capabilities/quantumblack/our-insights/the-state-of-ai-2025)
この記事を書いた人
ビッグテック最前線.com / 編集部
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