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この記事の目次
2025年7月23日、Googleの親会社であるAlphabetが発表した第2四半期決算は、市場に大きなインパクトを与えました。売上高は約14兆円(964億ドル)に達し、前年同期比14%増という力強い成長を記録。この数字だけを見れば、巨大テック企業の好調な業績報告に過ぎないかもしれません。
しかし、この決算報告の裏側には、デジタルマーケティングの常識を根底から覆す、巨大な地殻変動が隠されています。AI要約機能によってユーザーの検索行動が10%も増加し、8.5万社を超える企業がすでにGoogleのAI「Gemini」を導入しているという事実は、経営者やビジネスパーソンにとって決して他人事ではありません。
「AIの進化は、自社のSEOや広告戦略にどのような影響を与えるのか?」 「頻繁に報じられる『Googleは広告依存』という話は、本当に今の実態を反映しているのだろうか?」
この記事では、決算データという客観的な事実に基づき、AI時代に知るべき本質的な変化を解き明かします。未来の顧客接点を設計するための、新たなヒントを提示します。
1. 市場予想を超えたGoogle好決算の真相
1-1. 14兆円決算が示す「AIシフト」という後戻りできない変化
今回の決算が示した最も重要なメッセージは、Alphabetが推進してきた「AIファースト」戦略が、あらゆる事業領域で力強く結実し始めたという事実です。売上高14兆円という数字は、単なる結果ではなく、AIというエンジンが同社の成長を加速させている明確な証拠です。
特に注目すべきは、Google Cloudの成長です。売上高は前年同期比で32%も増加し、Microsoft Azure(31%増)やAmazon AWS(予測約17.4%増)といった競合を上回る成長率を記録しました。これは、AI開発のインフラとしてGoogle Cloudが選ばれていることの現れであり、市場の序列が変わりつつあることを示唆しています。
1-2. 顧客の「探し方」が変わる時代の幕開け
このAIシフトは、デジタルマーケティングの主戦場である「検索」の世界にも大きな変化をもたらしています。ユーザーが情報を探すという行為そのものが、AIによって再定義され始めているのです。
Googleは、従来の「10本の青いリンク」を表示する検索結果に加え、AIが要約を提示する「AI要約(AI Overviews)」や、対話形式で情報を提供する「AIモード」といった新しいインターフェースを次々と投入しています。これは、顧客が情報を探し、サービスや商品を見つけるまでのプロセスが、根本的に変わっていく時代の幕開けを意味します。
2. AI検索は脅威かチャンスか?明日から役立つSEO・広告戦略
AIによる検索体験の変化は、従来のSEOや広告のセオリーを過去のものにしてしまうのでしょうか? データは、むしろ新たなチャンスの存在を示唆しています。
2-1. 検索クエリ10%増の衝撃!AI要約(AI Overviews)が変えるユーザー行動
Googleの発表によると、AI要約が表示される検索において、ユーザーがさらに10%以上も多く検索を行う ようになっています。これは驚くべき変化です。「AIが答えを要約してくれるなら、ウェブサイトへの流入は減るのでは?」という一部の懸念とは裏腹に、ユーザーは「Googleに聞けば、より複雑で難しい問いにも答えてくれる」と学習し、さらに深く情報を探求するようになっているのです。
この行動変化は、デジタルマーケティングを行う企業にとって大きなチャンスです。ユーザーのより深いインテント(意図)に応える質の高いコンテンツを用意できれば、AIを介して新たな顧客接点を創出できる可能性が広がります。
2-2. AI時代の検索広告はどうなる?Googleの収益化戦略の核心
では、広告の観点ではどうでしょうか。Googleは、AI要約が表示される検索結果の収益化率は、従来の検索と「同等」である と明言しています。よって、企業は当面、安定した広告基盤の上で戦略を立てることが可能になります。
AIは広告の仕組みを破壊するのではなく、むしろ進化させています。例えば、AIを活用して広告クリエイティブを自動でリサイズしたり、ターゲティング精度を向上させたりといった取り組みが、すでに収益化を後押ししているのです。
2-3. コンテンツマーケティングで生き残るための3つの視点
AI時代にユーザーから選ばれるためには、コンテンツ戦略のアップデートが不可欠です。小手先のテクニックではなく、以下の3つの視点が重要になります。
2-3-1. 複雑な問いに答える専門性の高いコンテンツ
単純なキーワードに応えるだけのコンテンツは、AI要約に代替される可能性があります。ユーザーがAIとの対話の次に求めるような、専門的で深いインサイトを含むコンテンツの価値が相対的に高まります。
2-3-2. E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)の徹底
誰がその情報を発信しているのかという「信頼のシグナル」は、AI時代にさらに重要になります。自社の経験や専門知識を惜しみなく発信し、その分野における第一人者としての地位を確立することが、何よりのSEO対策となります。
2-3-3. 構造化データによる「AIへの意味付け」
自社のコンテンツが何について書かれているのかを、AIが理解しやすいように「構造化データ」を用いてマークアップすることが有効です。これにより、AIがコンテンツを適切に解釈し、検索結果で引用・参照しやすくなります。
3. 8.5万社が導入!AI「Gemini」はマーケティングにどう使えるか?
Googleの最先端AI「Gemini」は、単なる検索の裏方技術にとどまりません。すでに世界で8.5万社以上の企業がビジネスに導入 しており、その利用量は前年比で35倍という驚異的な伸びを見せています。LVMH、Salesforce、Targetといったグローバル企業が、具体的なビジネス価値を創出しているのです。
3-1. パーソナライズ体験を加速させるWayfairの事例
オンライン家具・家庭用品小売大手のWayfairは、Geminiを活用して、顧客一人ひとりに合わせたパーソナライズ体験を強化しています。Geminiが顧客の好みや行動を分析し、最適な商品を推薦することで、顧客満足度とコンバージョン率の向上を実現していると考えられます。これは、AIがECサイトの接客を高度化する好例です。
3-2. 業務効率化を実現する金融大手BBVAの事例
Geminiの活用は、顧客向けサービスに限りません。スペインの大手金融機関BBVAのような企業は、データ分析のパイプライン合理化や、サイバーセキュリティの強化といった社内業務にAIを導入し、大幅な効率化とリスク軽減を実現しています。 マーケティング部門においても、市場分析レポートの自動生成や、SNS投稿文の作成、膨大な顧客データの分析といった定型業務をAIに任せることで、担当者はより創造的な業務に集中できます。
4. データで論破!「Googleは広告依存」報道は本当か?
決算のたびに繰り返される「Googleは依然として広告に依存している」という論調。この見方は、もはや時代遅れかもしれません。データは、Alphabetがより強靭な収益構造へと変貌を遂げている事実を示しています。
4-1. 成長率が示す収益構造の健全な変化
以下のデータは、Alphabetの事業セグメント別の成長率です。
- Google Cloud: +32%
- サブスクリプション等: +20%
- YouTube広告: +13%
- 検索広告: +12%
この数字が明確に示しているのは、Cloudやサブスクリプションといった非広告事業が、会社の平均成長率(+14%)を大きく上回るペースで拡大している という事実です。その結果、検索広告が全体収益に占める割合は、前年の57.1%から56.2%へと着実に低下しています。
4-2. マーケターがGoogleプラットフォームに乗り続けるべき理由
この変化は「依存からの脱却」というよりも、「戦略的再投資」と捉えるべきです。Alphabetは、検索やYouTubeといった成熟した広告事業が生み出す巨大なキャッシュフローを、AIやCloudといった次世代の成長エンジンに惜しみなく注ぎ込んでいます。
そして、その最先端のAI技術が、再び検索の利便性やYouTubeのレコメンド精度を向上させ、プラットフォーム全体の魅力を高めるという強力な好循環が生まれています。このエコシステム全体が進化し続ける限り、デジタルマーケティングを行う企業にとってGoogleが重要なプラットフォームであり続けることは間違いありません。
5. まとめ:AI時代のマーケターに求められる新たなスキルセット
Alphabetの2025年第2四半期決算は、AIがビジネスのあらゆる側面を再定義する時代の到来を告げるものでした。ビジネスパーソンがこの変化の波を乗りこなすためには、新たなスキルセットが求められます。
表面的なデータではなく、本質を読み解く力: 決算数字の裏側にある戦略的な意図や、ユーザー行動の根本的な変化を理解する分析力。
AIとの協業スキル: GeminiのようなAIツールを使いこなし、分析、コンテンツ制作、業務効率化を実現する能力。
顧客体験への深いこだわり: AIによって生まれた時間的・創造的リソースを、より人間らしい共感や深い顧客理解に基づく体験設計に注力する視点。
AIは脅威ではなく、マーケティングを進化させる強力な武器です。今回の決算報告を、未来の戦略を構想するための一助としてください。
参考情報
- Alphabet Inc. (GOOG) Q2 2025 Earnings Call Transcript (https://seekingalpha.com/article/4803706-alphabet-inc-goog-q2-2025-earnings-call-transcript)
- Google Cloud was the star in Alphabet’s Q2 report – analysts (GOOG:NASDAQ) (https://seekingalpha.com/news/4471354-google-cloud-was-the-star-in-alphabets-q2-report—analysts)
- Google、AI検索の収益モデル定まらず 4〜6月好業績は広告頼み – 日本経済新聞 (https://www.nikkei.com/article/DGXZQOGN238340T20C25A7000000/)
- Google Claims AI Overviews Monetize At Same Rate As Traditional Search (https://www.searchenginejournal.com/google-claims-ai-overviews-monetize-at-same-rate-as-traditional-search/547838/)
- Sundar Pichai is ‘Very Excited’ About Google Cloud’s OpenAI Partnership: A Strategic Game-Changer in AI (https://www.justthink.ai/blog/the-future-is-here-sundar-pichais-vision-for-google-cloud-openai)
- Alphabet (GOOGL) Q2 2025 Earnings Call Transcript (https://www.fool.com/earnings/call-transcripts/2025/07/23/alphabet-googl-q2-2025-earnings-call-transcript/)
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