ビッグテック最前線.com / 編集部

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お子さんは1日に何時間、スマートフォンの画面を見ているでしょうか。日本の10歳から17歳のインターネット利用率はすでに約99%に達し、平均利用時間は1日あたり5時間27分に及びます。この現実を前に、世界の政府が一斉に動き出しました。2026年7月21日には、フランス議会が15歳未満のSNS利用を原則禁止する法案を可決しています(出典: https://www.aljazeera.com/news/2026/7/21/french-parliament-passes-social-media-ban-for-under-15s)。

規制の波は、罰金や賠償という具体的な段階に入りつつあります。ところが、この分野で世界の先頭を走っていたのは、実は18年前の日本でした。なぜ日本はいま規制ラッシュの外側にいるのか。そしてこの動きは、子どもの保護という枠を超えて、あらゆるデジタル事業者の設計思想そのものに跳ね返ろうとしています。順に見ていきます。

世界で一斉に動き出したSNS年齢規制

フランスの全面禁止と、豪州・EUの執行段階

2026年7月21日、フランス議会が15歳未満のSNS利用を原則禁止する法案を可決しました。新規アカウントの遮断は同年9月1日から、既存アカウントの閉鎖は2027年1月に予定され、対象はTikTok、Snapchat、Instagramです。EU加盟国として初の全面禁止で、現在は憲法院の合憲判断を待つ段階にあります。背景には、複数の家族が10代の自殺をめぐりTikTokを提訴したことがあります。

より先行しているのがオーストラリアです。2024年のオンライン安全法改正で16歳未満のアカウント保有を防ぐ合理的な措置を事業者に義務付け、2025年12月10日の適用開始から1か月ほどで約470万件のアカウントを削除しました。違反時の制裁は最高で約50億円に上り、親権者の同意による例外は認められていません。

EUはデジタルサービス法(DSA:巨大プラットフォームに安全対策を義務付けるEUの包括的なオンライン規制)に基づく制裁を実際に執行しました。2025年12月5日、Xに対して約216億円の制裁金を科しています。施行後としては初の制裁金で、XはこれをEUの裁判所に提訴し、審理が続いています。DSA違反には全世界売上高の6%を上限とする制裁金があり得るため、216億円はまだ上限から遠い水準です。英国のオンライン安全法も、制裁を約35億円か全世界年間売上高の10%のいずれか高い方と定めています。

アメリカは法律ではなく裁判所で動いている

アメリカの構図は他国と異なります。カリフォルニア州、ユタ州、テキサス州などの州法は、事業者による差止訴訟が相次ぎ、現在は執行が止まった状態にあります。2026年7月6日には連邦最高裁がテキサス州のアプリ年齢確認法を通過させ、州レベルの年齢確認義務が司法の関門を突破しましたが、州法と業界の係争は続いています。

一方で、司法は別のルートで動いています。2026年3月、ニューメキシコ州の陪審がMetaに約595億円の支払いを命じました。プラットフォームの危険性を利用者に警告せず、児童を性的搾取者から守らなかったという州法違反の認定です。同じ月、カリフォルニア州の陪審もMetaとGoogleに約9億6,000万円の支払いを命じています。争点は、アルゴリズムと自動再生機能が中毒状態に陥るよう意図的に設計されたかどうかでした。立法では業界に押し戻されつつも、陪審では設計上の責任が認められます。法律で止められないものを裁判所で決着させるという特徴が、この分野でも表れています。

2008年、この分野で世界の先頭にいたのは日本だった

一律の年齢制限は望ましくないという判断

日本はこの規制ラッシュに乗っていません。総務省の青少年保護ワーキンググループは、第一次報告書の案のなかで一律の年齢制限を明確に退けています。サービスごとに設計や特性が異なること、子どもの知る権利を確保する必要があることから、一定年齢以下の使用禁止は望ましくないのではないか、という判断です。

この判断そのものは、国際的な到達点と整合しています。国連人権高等弁務官のフォルカー・トゥルク氏は、オンライン上の害は設計上の選択とビジネス慣行から生じると述べ、安全でないプラットフォームへのアクセスを制限するだけでは終着点にはなり得ないと表明しました。国連は年齢による一律の禁止を容易に回避されるものと評価し、子どもをより危険で監視の少ない場所へ追いやるリスクを指摘します。オーストラリアでも、政府アドバイザーの調査で年齢確認が15歳と16歳を確実には区別できておらず、効果は限定的との指摘が出ています。

義務が回線に置かれたままの18年

問題は判断ではなく、執行の手段にあります。日本の青少年インターネット環境整備法は2008年の制定です。EUのDSAが2024年、英国のオンライン安全法が2023年、オーストラリアの改正法が2024年ですから、15年から16年早いことになります。当時の日本は、この分野の先頭にいました。

ところが同法が義務を課している相手は、青少年確認義務もフィルタリング提供義務も、いずれも携帯電話事業者です。スマートフォンのOSを開発する事業者に対しては、努力義務が定められているにすぎません。2017年に一度改正されていますが、誰が義務を負うかという骨格は2008年から変わっていません。スマートフォンの普及で垂直統合モデルが崩れ、携帯電話事業者に過剰な役割が期待されている、というのが作業部会の問題意識です。青少年確認義務の履行率は大手携帯電話事業者(MNO)で84%、格安SIM事業者(MVNO)で73%にとどまります。総務省が令和7年7月に打った措置も、要請文書の発出にとどまりました。

子どもが傷ついた場所は、守っていた場所ではなかった

74.2%と10.8%が示すズレ

日本の10歳から17歳のインターネット利用率は約99%で、そのうち86.1%がスマートフォン経由です。自分専用のスマートフォンを持つ割合も、中学生で95.4%、高校生で99.1%に達しています。

この環境で起きている被害について、警察庁の統計は2つの数字を示しています。ひとつは、SNSがきっかけの事件で被害に遭った児童・生徒のうち、被害児童自身が最初に投稿していた割合が74.2%であること。もうひとつは、被害児童のうちフィルタリングを利用していたのが10.8%にとどまることです。

この2つを並べると、日本が築いた防衛線の位置が見えてきます。法律を作り、携帯電話事業者に義務を課してまで守ってきたのは、有害なものを見せないという受信側の防衛でした。しかし実際に子どもが傷ついた経路の4分の3は、その子自身の発信から始まっていました。守っていたのは入口で、子どもが出ていったのは出口だったことになります。

被害の質も変わっています。SNSがきっかけの事件の被害児童総数は令和元年の1,819名から令和7年の1,566名へ減っていますが、そのうち殺人や不同意性交、略取誘拐などの重要犯罪等の被害者は、令和元年の111名から令和7年の598名へ、約5.4倍に増えました。総数が減っているから改善している、という読み方は成立しません。ネット上のいじめの認知件数も、平成30年度から令和6年度にかけて16,334件から27,365件へ増え続けています。

フィルタリングという言葉の限界

総務省の作業部会では、この概念そのものの見直しが議論されています。フィルタリングという言葉は受信リスクを前提とした時代の概念であり、いま顕在化している発信・拡散を中心としたリスクを捉えられていない、という指摘です。技術で青少年を保護するという意味で、サービス設計全体を含む技術的保護手段という概念への再整理が提起されています。

技術面の限界も明確です。スマートフォンは通信回線を意識せずに使われ、VPNアプリ(通信経路を迂回させるアプリ)でフィルタリングは回避されます。報告書自身、通信回線に依拠したフィルタリングをこれ以上強化しても効果は期待できないと記しています。受信側のリスクには有効でしたが、被害の主な経路が発信側へ移ったあとも、制度の設計は受信側に置かれたままでした。

規制されたのは、コンテンツではなく機能

216億円は何に対して科されたのか

ここからがビジネスの話です。EUがXに科した約216億円、ニューメキシコ州の陪審がMetaに命じた約595億円は、何に対する制裁だったのでしょうか。

DSA第28条に基づく未成年者保護ガイドライン(2025年7月)は、規制の対象を具体的な機能名で指定しています。無限スクロール、動画の自動再生、人為的な通知、ストリーク(連続利用の記録機能)、そして主に利用者のエンゲージメント(滞在や反応の量)を目的とした機能です。加えて、利用者を意図せぬ行動へ誘導するダークパターンや、ガチャ(ランダム型の課金)も禁止されました。名指しされたのはコンテンツではなく、設計そのものです。カリフォルニア州の陪審も2026年3月、InstagramとYouTubeのアルゴリズムや自動再生が中毒状態に陥るよう意図的に設計されたと認定しました。害の原因を設計に帰す点で、国連の見解とも重なります。

滞在時間を成果指標にしている会社への射程

問題は、名指しされた機能が特殊なものではない点です。無限スクロール、自動再生、プッシュ通知、ストリーク。これらはこの20年、あらゆるアプリが標準として取り入れてきたものです。ここで起きているのは児童保護の話にとどまらず、滞在時間の最大化という設計思想そのものが法的責任の対象になったという転換です。

ただし射程は正確に見る必要があります。DSAが直接の名宛人とするのは超大規模プラットフォームであり、日本の中小事業者が即座に巨額の制裁を受けるわけではありません。現実的な影響は、名指しされた機能リストが実務上の設計監査の基準として降りてくる形で現れます。成果指標を滞在時間やセッション数、継続率に置くプロダクトは、その達成手段を今後どう説明するのかが問われます。EUのガイドラインは、規制文書であると同時に、注目を奪い合うアテンションエコノミーに最適化してきた自社アプリの棚卸しリストとしても読めます。

規制が生む新しい市場:年齢を証明する仕組み

自己申告では不十分だと各国が一致した

この規制ラッシュには裏側があります。EUの未成年者保護ガイドラインは、生年月日を入力する自己申告方式を、プライバシーや安全を確保する観点から適切ではないと明記しました。英国や豪州のガイダンスも、自己申告だけでは信頼できないとしています。2026年5月のG7デジタル・技術大臣会合も、共通原則の第1原則に、年齢確認は青少年に年齢相応の体験を提供するために不可欠であると置きました。

各国が同時に自己申告では不十分だと結論したということは、裏を返せば、世界中の国家が同時に、年齢という一つの属性だけを他の個人情報を渡さずに証明する仕組みを必要としたということです。欧州委員会は2026年4月15日、その共通基盤としてEUが年齢確認アプリを提供する準備が整ったと発表しました。このアプリは、事業者側には利用者が一定の年齢を超えているかどうかの情報だけを渡し、それ以外は取得できない設計です。

規制は市場を制限するだけの装置ではなく、この局面では国家が新しいインフラ需要を発注する行為としても働いています。本人確認をコンプライアンス費用として扱ってきた企業は、すべてを証明するのではなく必要な一属性だけを渡す設計へ、前提の置き換えを迫られます。

日本はどうしていくべきか

処方箋はすでに書かれている

ここまでを並べると、日本の状況は厳しく見えます。世界が罰金や賠償の段階に入る一方で、日本の打ち手は要請文書にとどまりました。

ただし、打つ手が書かれていないわけではありません。総務省の作業部会は、青少年だと確認された利用者には初期設定の段階で保護措置が働く、というデフォルトオン(初期状態で保護機能が有効な状態)の発想を提言しています。加えて、年齢確認の厳格化、技術的保護手段への概念の再整理、安全設計に積極的な事業者をリスク評価で高く評価するインセンティブ設計も、検討課題に挙がっています。いずれも検討段階の文体で決定事項ではありませんが、国連人権高等弁務官やG7の共通原則と同じ方向へ、日本が自力でたどり着いていることは確認できます。

配り終えているカードを、どこに接続するか

もうひとつ、日本には他国にない条件があります。EUが2026年4月に完成させた年齢確認アプリと同じ役割を担いうる公的なデジタルID、すなわちマイナンバーカードを、日本はすでに全国民規模で配り終えています。

ただし現時点で、それはSNSの年齢確認には接続されていません。技術が足りないのではなく、接続する構想が描かれていないという話です。他国がこれから公的デジタルIDの整備に着手するのに対し、日本はその工程をすでに終えています。

日本は一律禁止に飛びつく代わりに、効かない理由を自国の統計でつかんでいます。被害の74.2%が投稿起点、フィルタリング利用率が10.8%という数字を公開の報告書に記す国は多くありません。足りないのは年数ではなく、すでにある土台を接続する設計です。

まとめ

今回の動きから読み取れる要点は、大きく3つあります。第一に、世界のSNS年齢規制はすでに議論の段階を越え、フランスの全面禁止、豪州での約470万件のアカウント削除、EUの約216億円の制裁、米国の約595億円の賠償評決という具体的な執行に入っています。第二に、規制の対象は有害なコンテンツではなく、無限スクロールや自動再生、通知といった機能や設計そのものへ移り、利用者の滞在時間を成果指標に置いてきたあらゆるデジタル事業のあり方に関わる転換となっています。第三に、その裏側で、年齢という一つの属性だけを安全に証明するインフラへの需要が世界で同時に生まれ、日本はマイナンバーカードというその土台をすでに配り終えています。

読者のみなさんに問いかけたいのは、自社のプロダクトやサービスが利用者のどの情報を何のために取得しているのか、という点です。機能一覧をEUが名指しした項目と照らし合わせ、本人確認で本当に必要な属性だけに絞り込む作業は、規制対応のコストであると同時に次の設計を組む資産にもなります。負けを正確に測れている状態こそ、次の一手の前提です。この視点を、ぜひご自身の仕事や組織に引き寄せて考えてみてください。

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