データ分析基盤を構築するうえで、自社にとって適切なアーキテクチャを選択したい。
そもそもアーキテクチャとは? DX担当者として必要な基礎知識を得たい。

そのような方に向けて、本記事ではデータ分析基盤におけるアーキテクチャ設計の基礎知識や、おすすめアーキテクチャパターンについてわかりやすく解説します。

  • そもそもデータ分析基盤のアーキテクチャとは?
  • アーキテクチャの構成要素
  • アーキテクチャの主なパターン
  • アーキテクチャパターンのおすすめ

データ分析基盤のアーキテクチャについてお悩みの方は、ぜひ本記事を理解を深めるためにお役立てください。

 

西潤史郎(監修)/データ分析基盤.com編集部

uruos.net/Submarine LLC

データエンジニア/Editor Team

データ分析基盤におけるアーキテクチャ

データ分析基盤のアーキテクチャとは、データを効果的に収集、保存、処理、分析し、活用するためのシステム全体の設計図のことです。

データがどのように流れ、どのように変換され、最終的にどのように利用されるかを決定する重要な要素です。

自社の課題や業務内容、規模にあわせて適切なアーキテクチャを構築することで、目的・目標を達成するためにデータ分析基盤を効果的に活用でき、ビジネスでの成長につなげられるでしょう。

なぜアーキテクチャが重要なのか

データ分析基盤のアーキテクチャ設計が重要な理由は、以下の通りです。

  • 効率的なデータ処理ができる
  • データ品質が高まる
  • 迅速な意思決定ができる
  • スケーラビリティと柔軟性を確保できる

アーキテクチャを適切に設計する際には、どのようなデータを収集するのか、どの程度の量のデータが必要か、データをどのような形式で活用するのかなど、さまざまな要素が求められます。

これらの要素を曖昧なままに進めると、例えば、以下のようなトラブルが起きてしまう可能性があるでしょう。

  • 必要のないデータばかりで利用できない
  • データの取捨選択に時間がかかる
  • データを加工しにくく、分析に活用できない
  • データ容量が大きくなり、より大きなデータベースが必要になる

データ分析基盤のアーキテクチャを適切に設計することで、上記のようなトラブルを回避でき、データ分析基盤を使った効率的な分析ができるようになります。

アーキテクチャで考えるべき主要要素

アーキテクチャを考える際には、さまざまな要素が関わるため、要素ごとに整理して考えると、考えやすくなります。

  • データ収集 (Data Ingestion)
  • データストレージ (Data Storage)
  • データ処理 (Data Processing)
  • データ分析 (Data Analytics)
  • データガバナンス (Data Governance)
  • スケーラビリティとパフォーマンス (Scalability and Performance)

それぞれの要素について次で解説します。

データ収集 (Data Ingestion)

データをどこから集めるのか、どのような手法で集めるのかについて検討します。集めるデータには以下のようなものがあります。

  • Webサイト
  • センサー情報
  • ログファイル
  • 外部APIなど

何が必要な情報か、目的をよく検討して決める必要があります。ビッグデータを扱うため、不要なデータを集めないよう目的を明確に定めることが大切です。

データストレージ (Data Storage)

データをどこに保存するのかを決めます。データの主な保存場所は以下の通りです。

  • データベース
  • データレイク
  • データウェアハウス(Google BigQueryなど)

それぞれデータのどこまで加工しているか、データの活用方法に違いがあるため、データの状態や目的にあわせて保存場所を決定する必要があります。

また、データレイクのようにさまざまなデータ形式があり得るストレージではデータの保存形式も決めるべき要素です。例えば、以下の保存形式が挙げられます。

  • CSV
  • JSON
  • Parquet(列指向データストレージ形式)

例えばCSVの特徴はさまざまなソフトで開けて、データ容量も軽いことです。。要件に応じて効果的なファイル形式を選択する必要があります。

データ処理 (Data Processing)

データ処理のプロセスとしては、データ取り込み時のプロセス、データ変換、処理の方法を決める必要があります。データ処理のプロセスは以下2つです。

  • ETL:抽出(Extract)→変形(Transformation)→格納(Load)
  • ELT:抽出(Extract)→格納(Load)→変形(Transformation)

どちらの手法も最終的には、生データを加工して分析しやすい状態にするという点では変わりません。しかし、ELTの場合は、ロードしてから加工するため、生データと加工データの共存ができることが特徴です。

データ処理方法としては、例えば以下の手法があります。

  • バッチ処理
  • ストリーム処理

バッチ処理は定期的に処理を進めるため、効率的にできますが、リアルタイムな処理はできません。ストリーム処理は、コストがかかりますが、リアルタイムで処理ができます。

それぞれ、処理にかかる時間やコストが変わるため、集めるデータの性質や目的に応じて処理方法を選びましょう。

データ分析 (Data Analytics)

データ分析手法としては、以下のものがあります。

  • データマイニング
  • 機械学習
  • 統計分析

上記の分析手法を決めて、目的にあわせてツールを選ぶことが大切です。データ分析ツールやBI(ビジネスインテリジェンス)ツールなど、目的に沿って必要なツールやプラットフォームを検討します。

データガバナンス (Data Governance)

データガバナンスは、データの管理体制のことで、データの品質管理や、セキュリティ性、プライバシーの確保などの要素を決めていきます。

データの品質管理として、検討すべき点は

  • 正確性:データが事実に基づいており、正確か
  • 一貫性:集める際のフォーマットは統一されているか
  • 完全性:必要なデータが欠けていないか、情報の量は必要十分か

などについて確認する必要があります。

データのセキュリティ性やプライバシーを確保するためには、ハードやソフトのセキュリティ性だけではなく、データを扱う人が適切に管理する体制を整えることも大切です。

セキュリティ性やプライバシー性を確保するための水準としては、GDPR、CCPAなどの基準があります。

スケーラビリティとパフォーマンス (Scalability and Performance)

データ処理の容量や処理方法など、どの程度の拡張性があるのかについて確認する必要があります。ビジネスの成長に応じて必要となるデータが増える可能性があるため、どのようにしてスケーラビリティを高めるのかを決めておくことが大切です。

スケーラビリティを高める手法

  • 水平スケーリング(Horizontal Scaling):複数の設備を追加して負荷を分散させ、システム全体の性能と可用性を向上させる手法です。スケーラビリティが高く、障害に対する耐性も強化されるため、長期的なコスト効率に優れています。しかし、設備の増加に伴いインフラ管理が複雑になるというデメリットがあります。
  • 垂直スケーリング(Vertical Scaling):既存の設備の性能を向上させることでシステム全体の能力を強化する手法です。例えば、CPUやメモリの増強が挙げられます。この方法は実装が容易で初期コストも低いですが、設備の物理的な限界が存在するため、スケーラビリティには限界があり、設備が単一のため単一障害点となるリスクもあります。

ユーザーインターフェース (User Interface)

データの可視化方法や操作画面の使いやすさなどのユーザーインターフェースについても検討すべき要素です。

データ分析の専門知識が十分ではない人が扱う場合には、見やすさや操作しやすさの重要性は高まります。

また、データの分析方法について、多様な方法に対応できるか、分析内容を必要に応じて変更・再調査できるかどうかもポイントとなる要素です。

インテグレーション (Integration)

インテグレーションとは、異なるシステムやツール間でデータを効率的に交換・連携することです。
API(異なるシステム間でのデータ交換を可能にするインターフェース)を利用することで、他のシステムやツールとシームレスにデータを交換し、データの一貫性と整合性が保たれ、業務プロセスの効率化が実現します。

異なるシステム間での複雑なデータ処理を自動化できるワークフロー(オーケストレーション)ツールを導入することも選択肢です。ワークフローツールを導入することで、複雑な処理の一部を自動化でき業務効率化に貢献できる可能性もあります。

アーキテクチャパターン

データ分析基盤のアーキテクチャにはいくつかのパターンがあり、それぞれが異なる用途やニーズに対応しています。以下に主なアーキテクチャのパターンを紹介します。

アーキテクチャ(パターン) 特徴 メリット デメリット 使用例
データウェアハウス(DWH) 大量の構造化データを集約・保存し、クエリや分析に特化 ・高速なクエリパフォーマンス
・データの整合性が高い
・導入・保守コスト ・ビジネスインテリジェンス(BI)
・レポーティング
データレイク 構造化・非構造化データを大量に格納できる ・スケーラブルで多様なデータ形式を扱える ・データの品質管理が難しい ・データサイエンス
・機械学習モデルのトレーニング
データマート 特定の部門やビジネスユニット向けにカスタマイズされたデータのサブセット ・特定のニーズに合わせたデータ提供
・パフォーマンスが高い
・データのサイロ化が起こる可能性
・導入コスト
・マーケティング部門の分析
・セールスレポート
バッチ処理 一定期間ごとにデータを一括処理 ・効率的な大量データ処理(スループットが高い)
・システムリソースの最適化
・リアルタイム性に欠ける
・レイテンシーが大きい
・定期的なバックアップ
・データ集計
リアルタイムデータストリーム処理 データが生成されると同時に処理・分析 ・リアルタイム性の高いインサイト
・迅速な意思決定
・データの一貫性の担保に難しさがある
・スループットは小さくなる
・金融取引のモニタリング
・IoTデバイスからのデータ収集
クラウド インターネットを通じてリソースを提供・管理 ・柔軟性が高さ
・スケーラビリティに優れる
・人による管理の軽減
・セキュリティ管理
・ベンダーロックインのリスク
・クラウドストレージ
・クラウドベースのアプリケーション
オンプレミス 自社の設備でデータやリソースを管理 ・セキュリティ管理がしやすい
・遅延を最小にする設計が可能
・初期導入コストが高い
・スケーラビリティに限界がある
・ミッションクリティカルな業務システム
・データセンター

また上記のパターンを組み合わせたハイブリットタイプもあります

アーキテクチャパターン 特徴 メリット デメリット 使用例
レイクハウス データレイクとデータウェアハウスのハイブリッド、ストリーミングとバッチ処理をサポート ・スケーラブルかつリアルタイムでのデータ処理が可能
・データ整合性が高い
・インフラ管理が必要
・導入コスト
・データサイエンス
・リアルタイム分析
・ETLプロセス
Lambdaアーキテクチャ バッチ処理とリアルタイムデータストリーム処理を組み合わせたアーキテクチャ ・バッチ処理の効率とリアルタイム処理の即時性を両立 ・実装が複雑でメンテナンスコストが高い
・データの一貫性担保の難しさ
・データ分析プラットフォーム
・IoTデータ処理
・金融取引モニタリング
ハイブリッドクラウド オンプレミスとクラウドの両方を利用し、データやアプリケーションをハイブリッドに運用 ・柔軟性とコスト効率のバランス
・規制対応やセキュリティが向上
・運用管理が複雑
・ネットワーク遅延やセキュリティ管理
・ハイブリッドITインフラ
・クラウドバースト
・データ災害復旧

おすすめアーキテクチャパターン3選

アーキテクチャの設計は専門知識が必要とされ、どう決めればよいかわからず困ることもあるでしょう。おすすめのアーキテクチャパターンを3つご紹介します。

  • レイクハウスアーキテクチャ
  • Lambdaアーキテクチャ
  • クラウドネイティブ型アーキテクチャ

それぞれ解説します。

レイクハウスアーキテクチャ

レイクハウスアーキテクチャが推奨される理由は、リアルタイム分析とコスト効率の高さにあります。

データレイクのスケーラビリティにより、大量の構造化・非構造化データを効率的に格納・処理でき、データウェアハウスの強力な分析機能を活用することで、迅速な意思決定を支援します。
これにより、競争の激しい市場環境で迅速に対応し、ビジネスの成長を促進することが可能です。

また、レイクハウスはバッチ処理とストリーム処理の両方をサポートし、さまざまなデータ処理ニーズに対応できるため、企業の変化に柔軟に対応する能力も高いです。

Lambdaアーキテクチャ

Lambdaアーキテクチャは、バッチ処理により大量のデータを効率的に処理し、リアルタイム処理で即時性のあるインサイトを提供します。
この二重の処理能力により、企業は正確かつタイムリーなデータ分析を実現し、迅速な意思決定が可能になります。
また、Lambdaアーキテクチャはスケーラビリティが高く、企業の成長や市場の変化に柔軟に対応できます。複数のデータソースからデータを収集し、一貫性を保ちながら処理するため、データの信頼性も高まります。

クラウドネイティブ型アーキテクチャ

クラウドネイティブ型アーキテクチャはインターネット上のクラウドシステムを使って構築されたアーキテクチャです。新しいアプリケーションやサービスを迅速に導入でき、必要に応じてデータ容量を調整しやすくなっています。

クラウドネイティブ型アーキテクチャのメリットは、コスト効率のよさと、最新データにアップデートできることによりセキュリティ性が確保されやすく、グローバル対応がしやすいことです。また、場所の制限を受けずにデータ分析基盤を利用できます。

クラウドネイティブ型の場合、初期投資が不要で、使用したリソースに対してのみ料金が発生するため、初期費用を抑えつつ、運用費用を最小限に抑えられます。

まとめ

データ分析基盤のアーキテクチャは、データの収集方法や、データ処理方法などのプロセス全体の設計であり、データ分析基盤全体の構造/フレームワークです。

データ分析の質を高め、データ分析基盤を最大限発揮させるためには、データ分析基盤のアーキテクチャを適切に設計することが大切です。

しかし、データ分析基盤のアーキテクチャを適切に設計するには、専門知識が求められ、自社の人材だけで実行するのは難しいでしょう。まずは、データ分析の現状や課題をデータサイエンティストなどの専門家に相談することから、始めてみてはいかがでしょうか。

この記事を書いた人

西潤史郎(監修)/データ分析基盤.com編集部

uruos.net/Submarine LLC

データエンジニア/Editor Team