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データ分析基盤を構築したものの、思い通りの結果が得られていない。
データ分析基盤構築にあたって、陥りやすい課題を把握しておきたい。
そのような方に、本記事ではデータ分析基盤にまつわる課題について様々な切り口から解説いたします。
- 目的と目標設定における課題
- 組織の課題
- 技術や人材の課題
- 成功へのアプローチ
データ分析基盤の導入や利活用に伴う課題でお悩みの方は、ぜひ本記事を問題解決にお役立てください。
この記事の目次
データ分析基盤の導入や活用に伴う3つの課題(はじめに)
データ分析基盤は、事業戦略や組織における課題を解決するためのソリューションとして注目されています。企業の未来を担う役割を持っていると言っても過言ではありません。一方で、データ分析基盤の導入や活用には複数の課題が伴うことも事実です。ひとつひとつの課題を解決し、持続可能なデータ分析基盤を築くことが大切です。
多くの人が感じる課題について、「目的と目標設定」「組織」「技術・人材」の3要素から解説いたします。
1. 目的と目標設定における課題
今、企業の目的が「DXの推進」、目標が「データ分析基盤の構築」になっている、ということはありませんか? これは手段を目的や目標に置き換えていることになるので改善が必要です。改善せず、ただ盲目的に技術の導入を進めることは、リソースの無駄づかいです。
データ活用やDX(デジタルトランスフォーメーション)の推進は、多くの企業にとって重要な課題ですが、データ活用やDXは、あくまでも企業が目的を果たすための手段です。
しかし、これらの事柄が目的と化してしまっている例も少なくありません。このような事態を防ぐには「どのような会社にしたいか?」といった、会社が目指す姿を明確にして目的に位置付けることです。
たとえば、以下のようなものが挙げられます。
- スピーディな経営判断や意思決定ができる
- 競合他社との差別化を図り、参入市場の競争優位性を確立する
目的が明確になったら、次は目標を定めます。目標の例としては、以下のような内容が挙げられます。
- 6カ月以内に全社データを統合するデータウェアハウスを構築する
- 次の四半期までにデータ分析を活用して顧客満足度調査を実施し、CSAT(Customer Satisfaction Score)を15%向上させる
この例からもわかるように、目標は具体的な期限や数値を含む形にします。これにより組織・チームが目的・目標にむかって一体となる体制をつくることができます。。
2. 組織の課題
データに関して組織には以下のような課題があります。
- 組織にデータ活用が浸透しない
- データが散在してサイロ化してしまっている
これらの課題は、データ活用を阻む大きな要因です。
データ活用が組織に浸透しない
多くの企業がデータ活用の浸透に悩んでいます。これは、デジタル技術の導入に対する抵抗や反発が原因です。その背後には、変化を好まない人間の心理があります。多くの人は、これまで培ってきた経験が無視されるのではないかという不安から、新しいシステムへの抵抗感を抱きます。また、業務効率化によって仕事が減るのではないかという恐れや、新システムに対する理解不足、スキルギャップも抵抗の要因です。
強制的に従わせるのは分断を生むだけで、建設的な解決策とは言えません。そもそも、なぜデータ分析基盤を導入するのか、現場で働く従業員にどんなメリットがあるのか、これらの疑問に丁寧に答える必要があります。データドリブンな働き方を受け入れることは簡単ではありません。「顧客のニーズを把握しよう」と言っている企業でも、実際にデータを活用しているケースは少ないのが実情です。
特に日本企業では、歴史があり、在籍期間が長い従業員が多い企業ほど、データ活用の浸透が難しいと認識しましょう。この問題は人間の感情に根ざしており、デジタル変革やデータ基盤の導入に対する不安や既存の業務プロセスへの固執が見られます。しかし、時代は変化しています。すべてを一度に変えるのは難しいですが、できる範囲から段階的に進めることが大切です。
組織全体でデータの価値を理解し、教育を推進しましょう。そして、データサイエンティストやエンジニアなどの専門家によるサポート体制を整えることが重要です。
組織のサイロ化とデータの散在
一見、まとまりのある組織に見えても、実は組織がサイロ化しているという例は多くあります。。データはもちろん、部署や部門、ひいては従業員ひとりひとりが組織にありながら独立した状態になっている場合、サイロ化していることに問題意識を持つことすらないケースもあります。
このような状態を改善するには、データウェアハウスやデータレイクなどの統合されたデータ基盤の構築が有効です。データ基盤の構築は、異なる部門やシステムに分散しているデータを一元的に集約し、容易にアクセスや分析ができる状態を作ります。また、ETL(Extract, Transform, Load)プロセスの最適化により、データの抽出から変換、ロードまでの効率向上も期待できます。
もうひとつ有効な方法としては、組織横断でデータを収集するマスタの担当者を設けることです。やや属人的な方策ではありますが、データ分析基盤導入時にはどうしても人力で作業を行わなければならない過渡期があることも事実です。まず、担当者が散在しているデータを収集して、データマートの構築などのステップに進むことも検討しましょう。
3. 技術・人材の課題
データ分析基盤は、一度導入すれば手放しでデータ活用が自動的に行われるわけではありません。構築はもちろん、維持においても技術と人材を十分に確保する必要があります。ここでは、技術的な知識とスキルの不足、セキュリティリスク、データの品質、そしてシステムの互換性にわけて、問題点を解説します。
データ分析基盤構築に必要な技術的な知識やスキル
データ分析基盤の構築には技術的な知識とエンジニアリングが必要不可欠です。データウェアハウス、データレイク、ETLプロセスの設計と運用、またビッグデータの取り扱いなど専門的な知識は膨大であり、社内のみで賄うことには限界があります。そのため、これらの技術を持っているデータサイエンティストやデータエンジニアを確保して、総力で取り組むのが望ましいでしょう。
セキュリティリスク
セキュリティリスクは、データ分析基盤の導入において非常に重要な要素です。データの蓄積が進むにつれて、データの保護と適切なセキュリティ対策の必要性が高くなります。データのアクセス管理、暗号化、侵入防御システムの整備など、欠損のない高度なセキュリティ技術が求められます。
データの品質
データの品質は、正確で信頼性のある分析を行ううえで欠かせない要素です。効果的なデータ分析には、データの精度・完全性・一貫性が必要であり、これらが不足すると意思決定に悪影響を及ぼす可能性があります。品質管理プロセスを確立し、データクレンジングを継続的に行うことは、データの品質を保つための重要なステップです。
システムとの互換性・汎用性
これまで蓄積してきたデータを活用するためには、データ分析基盤を既存のITインフラやアプリケーションと統合する必要があります。その際に問題となるのが、システムとの互換性や汎用性です。システム間のデータ移行、APIの統合、異なるプラットフォーム間でのデータ共有と操作など、既存のシステムと統合しなければ実行できないことは数多くあります。そのため、柔軟性とスケーラビリティを備えたアーキテクチャを選定することが大切です。
成功への4つのアプローチ
データ分析基盤を構築し、成功させるためには、戦略的なアプローチが必要です。ここでは、効果的なアプローチを4つに分けて解説します。
1. 目的と目標を明確化
データ分析基盤の導入は、企業にとって大きな投資です。お金をかけるからには成功させなければなりません。そのためのアプローチが、目的と目標の明確化です。目的は企業が「こうありたい」という姿を描くことで明確になります。その目的を数値や具体的な内容に落とし込んで目標を定義します。
目標が明確化できると、その実現方法はいくらでも出てくることに気づくでしょう。目的が明確化されている段階は、霧の先に目的が確認できる状態です。一方で、目標が明確化されると、霧が晴れて目的までの道筋がはっきりと見える状態になります。
それだけ目標の明確化は重要であり、戦略や計画を立てる際の道しるべとなります。
2. プロジェクトチームの編成、役割と責任の明確化
次はプロジェクトチームの編成です。データ分析基盤の導入と運用を担当するチームは、多様なスキルと専門知識を持つ人材で構成する必要があります。データサイエンティスト、エンジニア、プロジェクトマネージャー、セキュリティ専門家など、各領域のエキスパートを集めるのが望ましいでしょう。また、執行役員や実際のシステム運用担当者もチームインさせることで、導入後もスムーズにデータ分析基盤を活用できます。データ・ガバナンスの観点からも、内部と外部が協働してチームを構成するのが理想です。
チームの運営においては、メンバーの役割と責任を明確にし、それぞれがデータ分析基盤構築の各段階で何を担当するのかを明確にすることが大切です。役割がはっきりすることで、メンバーのモチベーションの向上も期待できます。
これらはデータ分析基盤の導入にあたって必須のアプローチです。データ分析基盤の導入プロジェクトは、明確なガイドラインと組織的な協力なしでは効率的に進められません。目的と目標を明確に設定し、それを実現するための専門チームを構成することで、企業の変革は成功に近づきます。
3. データ分析基盤構築のために社内外の力を活用
データ分析基盤を構築し、維持していくためには、社内外のリソースを最大限活用することが重要です。
社内では異なる部門からの意見を集め、データの需要と供給を明確にする作業を行います。いわゆる「現場の声」を新たなシステムに反映させることで、よりその企業に適したデータ分析基盤の構築が可能になります。
社外では、技術系のパートナーやコンサルタントと連携することで、最新のデータ分析技術や戦略に関する知見を取り入れましょう。このように最新の知見で設計・構築されたデータ分析基盤は、自社の需要にマッチした使いやすくて生産性の高いものになります。
4. データ暗号化等のセキュリティ対策
データを扱う際に、もっとも注意しなければならないのがデータセキュリティです。データ分析基盤の構築にあたっては、以下の対策を実施しましょう。
対策1. データ暗号化
データベース内のデータは、保存時および転送時に暗号化するよう設定しましょう。この設定により、外部からの不正アクセスによるデータ漏洩のリスクを大幅に軽減できます。
対策2. アクセス制御
データへのアクセスは、必要最小限の人員で行いましょう。いつでも、誰でもアクセスできる環境は、一見非常に便利に思えるかもしれませんが、データセキュリティの視点からは好ましくありません。ロール(明確に定義された役割・権限)ベースのアクセス制御を導入することで、データの安全性と保守性を高められます。
対策3. データ・ガバナンス
データの整合性と品質を維持するため、データの取り扱いや管理について定めたデータ・ガバナンスポリシーを策定し、周知・徹底しましょう。
対策4. データ整合性の確保
データは常に正確で最新の状態に保つ必要があります。そのために、定期的なデータ検証とクレンジングを行いましょう。
対策5. セキュリティ教育とトレーニング
全従業員を対象に、セキュリティ意識向上のための教育とトレーニングを行い、セキュリティへの意識を高めましょう。
対策6. 定期的なセキュリティ監査
システムの脆弱性を発見し、対処することはセキュリティの維持につながります。セキュリティチェックと監査は定期的に実施しましょう。
データ分析基盤のセキュリティリスクを最小限に抑えるためには、これらの対策が不可欠です。安全かつ効率的にデータ分析基盤を活用するためにも、可能な限り実施しましょう。
まとめ
データ分析基盤の導入には多くの課題があります。しかし、ひとつひとつの課題を見ていくと、それほど目新しいと感じるものはないかもしれません。事実、まったく予測もできなかった課題に阻まれるといったことはそれほど多くありません。順序を立てて、ていねいに対応していけば、解決できる課題がほとんどです。特に時間がかかりそうな課題は優先順位を高く設定するなど、時間や労力の配分を検討するといいでしょう。また「わからないことはわかる人に聞く」という初歩的な対処も、情報システムの分野においてはとても大切です。
それぞれの課題における対策や対処法を理解し、データ分析基盤を活用した新たな企業の姿に近づけるよう、攻めの姿勢で一歩を踏み出しましょう。
この記事を書いた人
西潤史郎(監修)/データ分析基盤.com編集部
uruos.net/Submarine LLC
データエンジニア/Editor Team
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