データ分析基盤導入プロジェクトに携わっているが、設計の知識がなくて困っている。
データ分析基盤の重要性は理解しているが、自社に合うデータ分析基盤がどういうものか検討がつかない・・・。

そのようなビジネスリーダー・DXプロジェクト担当者に向けて、本記事ではデータ分析基盤の設計について解説いたします。

  • データ分析基盤の構成のおさらい
  • データ分析基盤の設計に用いられる代表的なシステムやツール
  • クラウドとオンプレミスの長所と短所
  • データ分析基盤を設計する際のポイント

データ分析基盤の設計でお悩みの方は、ぜひ本記事を課題解決にお役立てください。

 

西潤史郎(監修)/データ分析基盤.com編集部

uruos.net/Submarine LLC

データエンジニア/Editor Team

データ分析基盤の基本構成

データ分析基盤は、データの集計やレポーティングに欠かせない社内インフラです。昨今では組織に蓄積されたデータはAIの学習に活用されることも増え、ますますその必要性が高まっています。まずは、データ分析基盤の設計について考えるための基礎知識をおさらいします。

データ収集

データ収集プロセスは、多様なデータソースからのデータを一元的に収集・統合し、分析可能な形式に変換することを目的とします。適切なデータ収集メカニズムを確立することで、データの質を維持し、信頼性の高い分析結果を得るための基盤が整います。効率的なデータ収集は、後続のデータ処理や分析の成功を左右する鍵です。

設計上のポイント

  • データ処理方法:リアルタイム収集かバッチ収集か
  • 各種データソースへ対応できるか:社内外のデータベース、API、IoTデバイス

データストレージ

次に、収集したデータをデータレイク(data lake)やデータウェアハウス(DWH)に保管し、データの集合体にします。データレイクは、データの湖のようなもので、生データや半構造化データをそのまま蓄積するのに適しており、ビッグデータの分析に利用されます。一方、データウェアハウスは、整理したデータを一元管理することで、データの集計などの処理の高速化を可能にするものです。異なる特性を持つストレージソリューションを適切に選択することで、基盤の効率性が向上します。

設計上のポイント

  • パフォーマンス:読み取り、書き込み速度が迅速か
  • スケーラビリティ:スケールアップ、スケールアウトを考慮し拡張性はあるか

データ処理

データ処理は、収集された生データを変換するプロセスです。主なステップには、データのクレンジング(欠損値や異常値の修正)、正規化(データ形式の統一)、変換(必要な形式や構造に整える)が含まれます。これにより、データの一貫性と品質が確保され、分析の精度が向上します。さらに、処理済みデータは効率的に検索・分析できるようにデータベースやデータウェアハウスに格納されます。

設計上のポイント

  • 処理方法:リアルタイム処理かバッチ処理か

データ分析・可視化ツール

最後に、分析・可視化ツールを通じて、データを価値のある情報に変えていきます。具体的には、データサイエンティストやビジネスユーザーが、必要なデータを取り出すこと、グラフやチャートを生成して形式化することが容易にできる使い勝手のよいツールとして確立させます。

設計上のポイント

  • 主要なデータソースに接続できるか:Excel、CSV、オンプレミスとクラウドのデータベース
  • ユーザーエクスペリエンス(UX):直感的なインターフェース、カスタマイズ可能なダッシュボード

このように、データ分析基盤は収集から分析に至るまでの一気通貫したプロセスです。データ分析基盤の設計ではこのプロセスを設計します。

設計時に考慮したいシステム・ツールのイメージ

データ分析基盤には以下のようなシステムおよびツールが使用されます。(それぞれの具体例はあくまで一例です)

主なシステム・ツール
1.データ収集・取り込みツール
Apache Kafka 高スループットの分散ストリーミングプラットフォームで、リアルタイムデータの収集と取り込みに使用される。
Apache Nifi データフロー管理システムで、データの収集、移動、変換を簡単に行うことができる。
2. データストレージ
Amazon S3 高い可用性とスケーラビリティを提供するクラウドストレージサービス。
Hadoop HDFS 大量のデータを分散ストレージするためのファイルシステム。
3. データ処理・変換ツール
Apache Spark 分散処理フレームワークで、大規模データの処理に強力な機能を持つ。
ETLツール
(例:Talend, Informatica
データの抽出、変換、ロード(ETL)を行うツール。
4. データベース管理システム(DBMS)
MySQL オープンソースのリレーショナルデータベース管理システム。
PostgreSQL 高度な機能を持つオープンソースのリレーショナルデータベース管理システム。
NoSQLデータベース
(例:MongoDB, Cassandra
非構造化データや大規模なデータを扱うためのデータベース。
5. データ分析(コンピュータ言語)
SQL データのクエリと操作に使用される標準言語。
Python データ分析に広く使用されるプログラミング言語で、PandasやNumPyなどのライブラリがあります。
R 統計解析とデータ可視化に強力なプログラミング言語。
6. ビジネスインテリジェンス(BI)ツール
Tableau データの可視化とビジネスインテリジェンスのためのツール。
Power BI マイクロソフトが提供するBIツール。データの可視化とレポート作成に優れている。
7. クラウドプラットフォーム
AWS(Amazon Web Services 多様なクラウドサービスを提供するプラットフォーム。データ分析基盤にも多く利用されている。

クラウド vs オンプレミス:どちらを採用すべきか?

データ分析基盤に用いられるツールにはクラウド型とオンプレミス型があり、いずれの選択肢にも長所と短所があります。また、小売や卸売など、企業の業態によってもニーズが異なります。自社のニーズやプロダクトに沿ったものを選ぶことが大切です。

クラウドかオンプレミスか検討する上で、考慮すべき観点を3つご紹介します。

コストの観点

コスト面では、オンプレミス環境は初期費用が大きくなりがちです。サーバーの購入や設置、維持管理にかかる費用が直接企業に請求されます。一方、クラウドは初期投資が少なく、使用した分だけの料金がかかるため、スタートアップや小規模事業者には魅力的です。しかし、データの膨大な量や処理ニーズが高まると、クラウドのコストは急速に増加する可能性があります。

セキュリティの観点

オンプレミスは、自社によるデータの保有と完全なコントロールが可能です。セキュリティポリシーを自社で厳格に管理できるのは、オンプレミスならではの利点と言えるでしょう。一方で、最新のセキュリティ対策を常に更新し続けることは、リソースと専門知識を要します。企業内にデータ分析基盤を管理する部署を設置する、そこで働く専門知識を持つ人材を確保するなど、企業が抱える負担は決して小さくありません。

クラウドは、セキュリティに関しても常に最新のインフラを提供してくれます。これはクラウドならではの利点です。企業はセキュリティ対策にかかる労力を削減できる一方で、クラウドへの依存は高くなります。

ハイブリッドクラウドの選択

ハイブリッドクラウドとは、目的や扱うデータの種類によって、オンプレミスとクラウドを部分的に使い分ける方法です。

例えば、厳格な管理が必要なデータはオンプレミスで管理し、可変データはクラウドに移行させるといった使い方が考えられます。

企業のニーズに合う使い方を構築することで、コスト効率とセキュリティのバランスを取りながら、データ分析基盤の効率的な運用が可能になります。

クラウドとオンプレミスのどちらを採用すべきかは、その組織の具体的なニーズやコスト感度、セキュリティ要件によって異なります。

また、クラウドとオンプレミス両方の環境で利用できるツールもあるため、ハイブリッドクラウドを採用する企業にとっては有用な選択肢となるでしょう。データ分析の目的と要件を明確にした上で、適切な選択をしましょう。

設計のポイント

ここまでの章で解説したとおり、データ分析基盤の設計にはさまざまなツールが用いられます。これらのツールを効果的に使って、目的・目標を達成するために、またデータドリブンな意思決定を推進するためには、効果的なデータ分析基盤の設計が不可欠です。ここでは特に重要なポイントについて解説します。

1. ユースケースの策定

ユースケースとは、実際にどのように使用されるかという具体例のことです。例としては、「マーケティングチームがキャンペーン効果を測定するためにデータ分析基盤を使用する」、「営業部門が顧客データを分析して販売戦略を最適化する」などがあります。

ユースケースを策定することで必要なデータの種類・収集方法・分析手法が特定され、具体的な要件が見えてきます。また、ユースケースに基づいてシステムの性能や拡張性、セキュリティ要件を設計することで、現実的で効果的な基盤を構築することができます。適切なユースケース策定は、プロジェクトの成功を左右する重要なステップです。

2. データフローの設計

次に、データの収集、加工、格納までの流れを明確にします。このステップでは、ETL(Extract、 Transform、Load)プロセスが中心となり、データソースからデータレイクやデータウェアハウスへデータを移動していきます。ETLの活用によって、データの整合性を保ちながら、迅速かつ正確にデータを処理できます。

3. データスキーマの定義

続いて、データをどのように組織化するかを決めます。データスキーマはデータベースの設計図のことで、データマートやデータウェアハウス内でのデータの論理的な構造を明確にし、分析効率を高めるために必須の要素です。

スキーマには、データの型、関係、制約を踏まえることを重視し、データ分析時のクエリのパフォーマンスが向上するよう設計しましょう。

4. アクセス管理と利便性(部門間の共通利用)

最後に、アクセス管理を設定し、利便性を確保します。どれほど有用なデータ基盤であっても、その利用が一方向で属人的なものとなっていてはデータ基盤の利便性を発揮できません。

例えば、IAM(Identity and Access Management)ツールを利用してユーザーごとに異なるアクセス権を設定することで、データの不正アクセスやリークを防ぐことができます。

セキュリティや保守性を担保しつつ、各部門やプロジェクトに携わる人たちが、必要なデータに容易にアクセスできる環境を整えましょう。

データ分析基盤の設計は、上記のステップを着実に実行し、組織全体のデータ戦略と調和・統一させてこそ本当の実力を発揮します。データを戦略的資源として最大限に活用するためにも、これらのポイントを押さえて利便性の高い設計をすることが大切です。

まとめ

データ分析基盤の設計作業そのものは、データエンジニアなどの専門職が行います。外部の支援会社に頼ることも多く出てくるでしょう。

一方で、自社の目的やニーズに沿った設計が行われているか、という点については、データ分析基盤構築プロジェクトに携わる責任者・担当者自身が判断しなければなりません。

データはプロジェクトの用途として利用できる形になって初めて真価を発揮します。全社で利用できる形となったデータは業績の向上やモダナイゼーション、ひいては事業の拡大を進めるのに不可欠な役割を担います。データを効率的に活用するため、データ分析基盤の設計について今一度向き合ってみましょう。

この記事を書いた人

西潤史郎(監修)/データ分析基盤.com編集部

uruos.net/Submarine LLC

データエンジニア/Editor Team