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この記事の目次
データ活用に高まる期待とその実態
ビジネスにデータ活用が不可欠な時代
企業間の競争が激化し、消費者の動向も多様で把握しづらい時代。コロナ禍を経験して一層将来の予測が難しくなった今、BI/BAツールやAI (人工知能)を駆使した正確なデータ処理にもとづく迅速な意思決定を行うことが、競争力アップの鍵として期待されています。
実際、ビッグデータの活用はイノベーションの創出に対し統計学的に有意に影響するとの報告もあり、データ活用の重要性は飛躍的に高まっています。
データドリブン(data-driven)な社会へ
データ利活用は企業内にとどまらず、今後は事業者間での共有を目指した、新たなデータ流通の形について議論されています。
EUでは「欧州データ戦略」と題し、EU共通のデータ空間を創出するための横断的ガバナンスフレームワークや各種規制、GDPR(EU一般データ保護規則)を軸にしたセキュリティ面の強化などを盛り込んだ計画が採用されています。製造業・環境・交通・医療・財務・金融・エネルギーなどを対象に、分野ごとの共有データ空間の整備を掲げています。
我が国においても、2019年に政府が「世界最先端デジタル国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」を閣議決定しました。利便性の向上と効率化を図りつつ、安全かつ容易にデータを利活用できる社会を目指し、ルール作りやプラットフォームの整備が進められているところです。また、2024年には総務省により「ビッグデータ等の利活用推進に関する産官学協議のための連携会議」が開催され、各府省、地方公共団体、民間企業等におけるデータ等の相互利活用を推進する取り組みが始まっています。
国内企業における実態
「令和2年版 情報通信白書」によると、eコマースなどの販売記録やGPS・RFIDなどの自動取得データの利用が特に増加傾向にあり、各企業にIoTの導入や「データ抽出・蓄積」への意識が浸透しつつあることがうかがえます。
しかし一方で、「データ分析」や、「機械学習・ディープラーニングなどを用いた予測」まで実施できている企業は、規模を問わず決して多くありません。オンラインデータ活用と企業行動の関係性については、「単なるデータ収集は生産性への影響があるとは言えない」との調査報告があり、やはり収集したデータの分析まで行う必要性が示唆されています。
今後の取り組みには「収集するデータの品質を向上させたい」「分析技術・体制を整えたい」と前向きに回答している企業が多いにも関わらず、いったい何が障壁となっているのでしょうか。
データ活用を阻む4つの課題
- 各ツールのリテラシーの高い人材の不足
- データ活用人材の高い人件費
- データ活用の外部パートナー企業選定
- スムーズに進まない外部企業へのデータ活用業務の委託
各ツールのリテラシーの高い人材の不足
ビッグデータやAIデータ活用を阻む大きな要因となっているものの一つに、人材不足があります。データサイエンティストやデータアナリストのような専門職は、国内ではまだまだ少ないのが現状です。データ分析体制に関する総務省の調査によると、特に中小企業においては「データ分析が専門ではない部署・担当者」が運用しているという回答の割合が高いことが確認されています。
また、統計学のようなデータ分析の知見を持つ人材がいても、ビジネスに対する視点が欠如していては意味がありません。ベースとなるデータサイエンス力だけでなく、ビジネス課題をあぶり出し、その課題に対しての答えまでも導き出せる高度なスキルを持った人材が必要とされています。
しかし、そのようなニーズを満たせる人材自体がなかなか少ないことに加え、少子化問題も絡み、人材育成についても課題に直面している企業も少なくありません。
経済産業省の調査によれば、日本のIT人材は2030年には59万人以上が不足すると推計され、今後も人材不足は深刻化しそうです。多くの企業では、この人材不足という喫緊の共通課題に対して具体的な解決策が見つかっていないのが現状です。
データ活用人材の高い人件費
新しいツールを導入した際に、社内で対応できる人材がいないことは珍しいことではありません。すると、企業が取れる手法は、外注するか内部で人材育成を行うかの2択となります。
どちらにせよ、企業にとってはコストの増大が懸念されるため、期待される成果との費用対効果をよく検討しなければなりません。
データサイエンティストの給与はかなり高く、リモートワーク可能という好条件で月に100万円以上稼ぐケースも珍しくありません。外注するとなると、毎月それなりの人件費を覚悟する必要があります。
一方で、社内でデータサイエンス関連の人材育成を行う場合は、一人前になるのにそれなりの時間もかかりますので、時間と費用の両面から見ても大きなコストとなります。
データ活用の外部パートナー企業選定
データ活用を部分最適化で終わらせず、新たなビジネスモデルの確立、市場開拓など企業としての成長に役立てるため、外部のパートナーと提携し、数年かけて社内のDX(デジタルトランスフォーメーション)化を進めるパターンも少なくありません。
実際、大企業や外資企業などは、外部パートナーと提携することで社内を根本から改革し、DX化ひいてはデータ活用のための基盤構築まで行い、成功した例があります。
しかし、外部パートナーを選ぶのも一苦労。導入するツールについての知識だけではなく世界中での有益な業界知識などを兼ね備えた理想のパートナーを見つけるには、時間をかけたすり合わせも必要です。また、選定基準に明確なものがないこともパートナー企業の選定に時間がかかる理由です。
スムーズに進まない外部企業へのデータ活用業務の委託
外部パートナーが決まった後も、セキュリティ対策が課題となって委託がスムーズに進まないというケースもあります。企業にとって命とも言えるデータの取り扱いは、トップレベルの機密事項です。データ侵害を受ける危険性は可能な限り排除しなくてはなりません。また、個人情報保護法により、万が一顧客などの個人情報が流出した場合には個人情報保護委員会に対する報告が義務付けられています。当然、情報流出は公となり、企業の社会的信用も失ってしまいます。
そのため外部への情報の公開・共有は、社内の部門承認が降りづらい場合があり、結果として十分に外部パートナーの活用ができない・機能しないケースも多く見られます。
外部パートナーに委託する前に、社内でどのような情報であれば共有できるのかなどの精査を行う必要があるでしょう。
課題解決を導くソリューション
あらゆる手段を講じ、データを扱えるリソースを配置する
課題解決の鍵を握るのは、とにかくデータを正しく扱えるリソースを確保することです。業界やデータの種類、組織の既存の人員構成によって、最適なリソースの組み合わせは異なります。それぞれの企業がどの方法が一番自社にあっているのか判断することが重要です。
リソース確保に向けた3つのオプション
- 社内人材の育成
- 国内外で経験値のある人材へ外部委託する
- 外部委託を行いつつ、同時に社内人材を育成する
要件整理人材の確保と作業環境の整備
データ活用を目的とした組織のDX化を検討する場合、金銭的なコストだけではなく、フォーマットの整備など社内全体の情報管理、生産性を高めるための社内での情報共有プロセスなど、既存の環境設備の変更を強いられることが多いため、成功までの時間とコストが大きくなります。
実際、DX・ICT化の現状について尋ねた調査によると、直近の取り組みとしては「ペーパーレス化」「Web会議の導入」「従業員教育の充実」を挙げる企業が多く、RPA実装による自動化や、CDO(※1)・CIO(※2)の設置といった業務・人事領域の整備まで踏み込めている企業は1~2割に留まっています。
外部のリソースを用いるにしても、会社の業務形態や業界によってどのやり方が良いのかが変わってくるため、選定基準も不明瞭です。
そのため、実際に動き始めてから「こんなはずではなかった」とならないために、2つのステップが大切です。
- データ活用のための外部パートナー・管理ツールの選定基準を作るのに必要なナレッジをもつコンサルティング企業を見つけ、組織で独自の選定基準を作る。
- 選定基準に沿って、外部パートナーやデータ管理ツールを選び、データを扱える人やデータを取り扱えるPC・サーバー環境を整備する。
※1…Chief Digital Officer ※2…Chief Information Officer
属人化している社内のデータ管理を標準化・仕組み化する
企業でよくありがちなのが、社内のデータ構造を理解している人が限られており、加えてデータ管理の工数が多すぎるため、データ統合がなかなか進まず、外部パートナーとの連携にも悪影響が発生してしまうケースです。外部パートナーと協力してDX化を行う場合は、スムーズな情報のやり取りが不可欠です。
現在の状況をよく検証して、データ構造を理解している人に依存せず、データに関する意思決定やコミュニケーションが能動的かつ円滑に行われるための体制を構築しておくことをおすすめします。例えばアナログ体質な企業文化があると、新たな仕組みづくりに対して組織内の不満や抵抗が障壁となることがあります。その場合は社内セミナーなどの開催により、社員の意識や企業文化の改革が必要になるでしょう。
データ活用がもたらす効果・利益
データ活用を行うことにより、ワークフローが可視化されるため、どこを人間が担うべきかの判断が可能となります。
データ活用がもたらす効果・利益
- レポート作成工数や集計ミスの削減
- 月次のレポート作成件数の拡大
- データ更新のリアルタイム連携による素早い経営判断
特定の社員のPCに属人化していた月次のレポーティング業務が仕組み化され、レポート作成工数や集計ミスの削減を実現できたり、一つずつ手動で作成していたレポートを一括で出力できるようになったため、月次のレポート作成件数を増やすことができたりといったケースが報告されています。
また製造業においては、データの利活用によって設備の稼働状況の見える化を容易にし、生産効率を上げている事例があります。センサーを後付けするだけで、ネットワークを通じて機器の破損状況などのデータが自動的に収集・解析され、さらに予兆の検知までが可能となるサービスが導入されています。
他にも、データ更新がリアルタイムで行われることにより、経営層に対しフレッシュな情報を提供できます。経営に関わる重要な課題に対しても、データドリブンな意思決定ができるため、スピードや柔軟さがあがるという点も無視できない利益です。
同様に、これまで事業部ごとに分散して運用されていたデータを一元管理し、共通の指標で横断的に評価することで、市場予測・KPI管理・戦略策定などの精度が上がると想定されます。
総務省の調査研究でも、いずれの事業領域(※3)においてもデータ活用は効果が期待でき、特にデータ活用度合い(※4)を高度化させることが有効であると示唆されています。
※3…経営企画・組織改革/製品・サービスの企画、開発/マーケティング/生産・製造/物流・在庫管理/保守・メンテナンス・サポート ※4…活用するソフトウェア・ハードウェア、分析手法、頻度、組織のDX化など
データ管理に対する社内外の「要件整理人材」確保が先決
新しいツールやアプリケーションを導入するだけで終わってしまうと、社内の一部のデータ管理が便利になった、というだけの結論で終わってしまいます。
データ活用のポイントは、収集後のアクション・改善へのビジョンを描くリーダーシップです。
データ分析の結果をどの様にアクションにつなげて利活用するかという方針を打ち出す、社内人材の確保・育成、または社外人材の登用を長期的な視点で行えるかどうかが、プロジェクトの成否を分けます。ただ、これらプロジェクトビジョンの具体化に向けたロードマップの策定という役割を担える人材が社内に揃っていないケースも少なくありません。
プロジェクトの目的を果たすための技術的な視点・データ管理業務の視点、ビジュアライズ作成の視点、この3つの要素から包括的なデータ管理プロジェクトの全体像を描くためにも、外部のコンサルタントの活用は一つの手立てになるかもしれません。
「データ活用」で Submarine がサポートできる3つのポイント
Submarine では、ビジネスに合ったツール要件の整理、導入後のデータ共有を実現するダッシュボードの作成において、ご支援が可能です。
- 社内でDX化を進めなくてはいけないのは理解しているが、ビジネス要件にあった適切なツールが何かわからない
- またツールは導入済みだが人材確保ができていない
- 社内でデータ共有に必要なダッシュボード作成ツールが未導入
などの場合は、Submarine までご相談ください。
参考記事
総務省. 「令和2年版 情報通信白書 デジタルデータ活用の現状と課題」. 2020-08-04.
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r02/pdf/n3200000.pdf, (2021-08-10 参照)
株式会社情報通信総合研究所. 「デジタルデータの経済的価値の計測と活用の現状に関する調査研究の請負報告書」. 2020-03.
https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/linkdata/r02_05_houkoku.pdf, (2021-08-10参照)
総務省. 「ビッグデータ等の利活用推進に関する産官学協議のための連携会議」
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/kenkyu/big_data/index.html, (2024-09-23参照)
この記事を書いた人
西潤史郎(監修)/データ分析基盤.com編集部
uruos.net/Submarine LLC
データエンジニア/Editor Team
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