ビッグテック最前線.com / 編集部

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この記事の目次

2025年のデジタルマーケティング業界は、かつてない矛盾に直面しています。Webサイト運営者やSEO(検索エンジン最適化)担当者の間では、検索からの流入が激減するSEOの終焉が現実味を帯びて語られる一方、検索市場の覇者であるGoogleは、AIへの移行によって歴史的な爆進を続けているのです。

この矛盾を象徴するのが、Googleの親会社Alphabetが発表した2025年第3四半期の決算報告です。

本記事では、Googleが絶好調であるにもかかわらず、なぜWebサイトへのトラフィックが消滅しつつあるのか、そのメカニズムと、新たに登場した収益エンジンAI Maxがマーケターにもたらすリスクと機会について徹底解剖します。

1. 検索の矛盾:SEOの終焉とGoogleの爆進

「Google検索の利用が増えれば、Webサイトへのアクセスも増える」。かつて常識とされたこの相関関係は、AIの台頭によって崩れ去りました。

1-1. Webサイト運営者の悲鳴:AIがオーガニックトラフィックを奪う現実

現在、多くのWebサイト運営者が直面しているのはゼロクリック検索の急増です。GoogleのAIが検索結果ページ上で直接「答え」を生成・表示するため、ユーザーがリンクをクリックしてWebサイトを訪問する必要性が薄れています。

実際に、2025年の調査データによると、一般的な検索エンジンからのWebサイトへの流入トラフィックは前年比で6.7%も減少しており、パブリッシャー(情報発信者)は深刻な危機に瀕しています。

1-2. Googleの決算:AI Overviews 20億人、AI Mode 7500万DAU突破の衝撃

一方で、Googleの検索事業はかつてない活況を呈しています。決算報告によると、検索結果にAIによる要約を表示するAI Overviewsの利用者は全世界で20億人以上に拡大しました。さらに、対話型の新しい検索体験であるAI Modeは、日次アクティブユーザー(DAU)が7500万人を突破し、米国での検索回数は前四半期比で2倍に急増しています。

Googleのプラットフォーム内でのエンゲージメントは爆発的に高まっているものの、その熱量が外部のWebサイトへのトラフィックとして還元されにくい構造へと変化しているのです。

2. Googleの検索体験はどう変わった? AIOとAI Modeの戦略的役割

この変化を理解するには、Googleが推進する2つのAI機能の役割を把握する必要があります。

2-1. AI Overviews(AIO)とは:全ユーザーを囲い込む「標準設定のAI」

AI Overviews(AIO)は、検索結果の最上部にAI生成の回答を表示する機能であり、ユーザーが特別な操作をせずとも表示される受動的なAI体験です。

Googleはこの機能を標準設定(デフォルト)化することで、競合他社のAI検索サービスへのユーザー流出を防ぐ防衛的な戦略をとっています。20億人という規模への拡大は、Googleが既存のユーザーベースを強制的にAI検索体験へと移行させた結果といえます。

2-2. AI Modeとは:若年層中心に「新規クエリ」を創出する対話型検索

一方、AI Modeはユーザーが能動的に切り替えて利用する対話型・マルチモーダル検索です。

「画像をアップロードして詳細を尋ねる」「複雑な条件でプラン作成を依頼する」といった、従来のキーワード検索では解決できなかった高度な質問が可能になります。これは既存の検索需要を奪うだけでなく、若年層を中心に純粋な新規の検索需要を掘り起こす攻撃的な戦略機能を果たしています。

3. SEOの終焉は本当か?データが示すゼロクリック検索の脅威

SEOの終焉という言葉は、単なる悲観論ではなく、客観的なデータによって裏付けられつつあります。

3-1. CTR(クリック率)61%激減:AI Overviewsがもたらす壊滅的な影響

マーケティング分析企業Seer Interactiveが2025年9月に発表した調査結果は、業界に衝撃を与えました。AI Overviewsが表示されるクエリにおいて、オーガニック検索(自然検索)のクリック率(CTR)は、従来の1.76%から0.61%へと、実に61%も激減したのです。

さらに、Bain & Companyの調査では、消費者の80%が、自身の検索行動の40%以上でWebサイトをクリックしないゼロクリックのAI要約結果に依存していることが明らかになりました。

3-2. ゼロクリック検索時代の「勝者」と「敗者」を分ける分岐点

しかし、すべてのサイトが敗者になるわけではありません。データは「AI Overviewsに引用されたブランドは、オーガニッククリックが35%増加する」という事実も示しています。

これは、従来の「1位から10位まで順位を競うゲーム」から、AIに信頼できる情報源として選ばれ「引用されるか否かのゲーム」への転換を意味します。AI時代のSEOは、トラフィック配分の二極化、すなわち勝者総取りの様相を呈しています。

4. 【徹底解剖】Google新収益エンジンAI Maxのカラクリとリスク

パブリッシャーへの流入が減る中で、なぜGoogleの広告収益は増加しているのでしょうか。その鍵を握るのが、新広告プロダクトAI Maxです。

4-1. Googleはなぜ儲かる?「数十億の新規クエリ」を生むAI Maxの仕組み

Googleは、AI Modeによって生まれた「数十億の新規クエリ」を収益化するために、AI Maxを展開しました。

従来、対話型の複雑な質問(例:「夏休みの家族旅行プランを考えて」)は、具体的な商品購入の意図が不明確なため非商業的とみなされてきました。しかし、AI Maxは文脈を理解し、その回答の中に自然な形で広告(例:旅行プランに合わせたホテル予約の提案)を組み込みます。

これにより、Webサイトを経由させることなく、Googleの検索結果ページ内で完結する新たな収益モデルが確立されたのです。

4-2. Google公式発表「CV14%増」 vs 第三者分析「ROAS 35%悪化」

AI Maxの導入効果について、Googleと第三者機関の見解は真っ向から対立しています。

Google公式は、AI Maxを利用することでコンバージョンが平均14%増加し、特に従来型キーワードに依存していたキャンペーンでは27%の増加が見込めると主張しています。

一方、独立系コンサルティング企業Smarter Ecommerceの分析では、AI Maxは従来型キャンペーンと比較してROAS(広告費用対効果)が35%も低かったと報告されています。

4-3. AI Maxは不透明か? 広告運用者が直面するCPA高騰リスク

さらに深刻なのは、CPA(顧客獲得単価)の高騰です。ある専門家のA/Bテストでは、AI Max経由のCPAが従来の手動運用に比べて約90%も高騰($52.69 → $100.37)した事例が報告されています。

AI Maxは、広告主が想定していないクエリにも「関連性が高い」とAIが判断すれば広告を配信します。これはGoogleにとっては広告在庫の拡大を意味しますが、広告主にとっては、コンバージョンに至りにくい非効率なクエリに予算を消化されるリスク、いわゆる不透明化(ブラックボックス化)の懸念があるのです。

5. 【マーケター向け実践ガイド】AI検索時代に実行すべき3つの新戦略

Googleのエコシステムが「自己完結型」へとシフトする中、マーケターは戦略の根本的な見直しが必要です。

5-1. 「順位」から「引用」へ:E-E-A-T(特に経験)を強化する方法

SEOの目的を「検索順位の獲得」からAIへの引用(Citation)獲得へと再定義する必要があります。

AIはインターネット上の情報を要約することは得意ですが、実体験に基づく一次情報を生成することはできません。そのため、E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)の中でも、特にExperience(経験)、すなわち独自の視点や体験談を含むコンテンツが、AIに選ばれるための決定的な要素となります。

5-2. [広告運用] AI Maxの「暴走」を防ぐ:A/Bテストと徹底したパフォーマンス管理

AI Maxは強力なツールですが、Googleの売上最大化が必ずしも広告主の利益最大化とは限りません。導入にあたっては、Googleの推奨を鵜呑みにせず、必ず従来キャンペーンとの厳格なA/Bテストを実施することが推奨されます。

また、「ブランドの除外」やターゲット地域の設定など、利用可能な制御機能を最大限に活用し、AIによる非効率な広告配信を未然に防ぐ管理体制が不可欠です。

5-3. [チャネル戦略] 「検索一本足打法」からの脱却:SNS・メルマガへのリソース分散

最大のリスクヘッジは、Google検索への依存度を下げることです。AI Overviewsによるトラフィック減少を前提とし、SNS、メールマガジン、自社アプリなど、検索エンジンを介さずに顧客と直接つながるチャネル(ダイレクトトラフィック)の構築へリソースを分散させることが重要です。

「検索」という一本足打法から脱却し、多様な接点を持つことこそが、AI時代のマーケティングにおける生存戦略となります。

6. まとめ

SEOの終焉Googleの爆進の矛盾は、GoogleがWebサイトへの送客装置から、情報を自己完結させるプラットフォームへと進化した結果です。

マーケターは、AIに「引用」される質の高い一次情報の発信を続けつつ、広告運用ではAIの不透明化を警戒し、最終的には検索に依存しない顧客基盤の構築を急ぐ必要があります。変化を恐れず、新たなルールに適応した戦略へと舵を切ることが求められています。

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