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Netflixオリジナルアニメーション映画『KPop Demon Hunters』が、Netflix史上最も人気の高い映画となりました。2025年6月20日に配信開始されたこの作品は、Netflixオリジナルアニメーション映画史上最高視聴数となる3億2510万回再生(10月20日現在)を記録する偉業を達成しました。この大記録は、ドウェイン・ジョンソン主演の『レッド・ノーティス』(2億3090万回再生)や、Netflix史上最大の視聴数を誇っていた『イカゲーム』シーズン1(2億6520万回再生)を超えるものです。
世界のチャートを席巻するサウンドトラック
劇中に登場する架空のK-POP3人組ガールズグループ「HUNTR/X」(ハントリックス)の楽曲「Golden」は米ビルボードHOT 100で通算8週1位を獲得し、同5人組ボーイズグループSaja Boys(サジャボーイズ)の「Soda Pop」は7位、「Your Idol」は10位となるなど計3曲をTOP10に送り込んでいます。さらに、Billboard Hot 100のトップ10に4曲が同時ランクインという記録を生み出しました。映画『サタデー・ナイト・フィーバー』のサウンドトラックから3曲同時ランクインという1977年の記録を48年ぶりに更新したというのだから驚くべき成果です。
8月末に北米で行われたシングアロング上映(一緒に歌う応援上映)は、Netflixの公式発表ではないが推定興行収入第1位、わずか2日間で1920万ドル(約28.8億円、1ドル=150円換算)を稼ぎました。Netflixで初公開されてから8週間後に行われたこのシングアロング上映は、ハロウィン週末にも再度実施予定で、今回はすべての主要劇場チェーンが参加し、いくつかの国際市場も追加されます。
10億ドル超のフランチャイズ化
Netflixが運営する公式マーチャンダイズショップの売り上げは400%アップを記録し、韓国内でも多数のコラボ商品が販売されています。『KPop Demon Hunters』はNetflixにとって、米ディズニーの『アナと雪の女王』に匹敵するような、10億ドル超(約1500億円)の可能性を持つフランチャイズとなり、現在続編の企画が進行中です。
MattelとHasbroが『KPop Demon Hunters』のグローバル共同マスタートイライセンシー契約を締結しました。これは両社にとって稀で、おそらく前例のないパートナーシップです。NetflixのコンテンツIPが、ストリーミングサービスを超えて、商品化やライセンシングなど、新たな収益源を生み出していることを示しています。
制作背景とNetflixへの移行
アニメーションを手掛けたのは、これが初監督の韓国系カナダ人監督のマギー・カンと、『ウィッシュ・ドラゴン』のクリス・アップルハンスです。米国のアニメーション制作会社ドリームワークスやイルミネーションの作品でストーリーアーティストを務めていたカン監督が米ソニー・ピクチャーズ アニメーションで企画していたが、2021年に新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)の最中にソニー・ピクチャーズとNetflixの間で交わされた契約により、Netflixオリジナル作品として制作されました。
メールニュースのPuckのリポートによると、Netflixは実費制作費プラス2000万ドル(約30億円)で今作の配信権、商品化などの二次使用権、続編・スピンオフなどの権利を買い取ったとされています。パンデミックで劇場公開がままならなかった当時は誰も、この作品が2025年夏を代表するファミリーヒット映画になるとは思いもしなかったのです。
グローバルヒットを生んだNetflixの戦略
『KPop Demon Hunters』の成功は、Netflixで最初に公開されたことが要因です。スーパーファンが映画を視聴し、繰り返し視聴することで、レコメンデーションエンジンが機能し、より多くのスーパーファンに届き、彼らも映画を愛するようになりました。Netflixでの配信の容易さと価値により、ファンは繰り返し視聴でき、ソーシャルメディアフィードに表示されたときに視聴方法を推測する必要がなく、世界中で『KPop Demon Hunters』が大ヒットしたのです。
ただし、Netflixではなくソニー・ピクチャーズが世界配給を行っていたらここまでのヒットになったかどうかは疑わしいと指摘されています。その理由はいくつかあるが、配信で繰り返し見られたこと、『イカゲーム』のような韓国ローカル作品ではなく米国製作ながらK-POP、Kカルチャーファンをつかんだことが、映画と楽曲のグローバルヒットを生んだと考えられます。
Netflixの実写版『ONE PIECE』の例を見ると、Netflixが独占配信権を獲得することで、原作者のビジョンを尊重しつつ、Netflixの資金力と世界的な配信ネットワークを活用した大規模な実写化が実現しました。『ONE PIECE』は、1話あたり約1,800万ドル(日本円で約26億円)、シーズン1全体で約1億4,400万ドル(日本円で約200億円)というNetflixオリジナルシリーズ史上最高額クラスの製作費を投じ、原作者の尾田栄一郎氏がエグゼクティブ・プロデューサーとして深く関わる特別な契約形態が取られました。『KPop Demon Hunters』の場合も、Netflixが独占配信権を獲得することで、繰り返し視聴やグローバルな配信が可能となり、ヒットにつながったと考えられます。一方、ソニー・ピクチャーズが世界配給を行っていた場合、劇場公開中心の配給戦略となり、Netflixのような柔軟な配信戦略は取れなかった可能性が高いです。
Netflixの戦略は、メンバーにNetflixで独占的な初回公開映画を提供することです。『KPop Demon Hunters』のように、ファンのために、または公開戦略、宣伝、マーケティング、資格要件の一環として、特定の映画を劇場で公開することもあります。Netflixは、この映画がポップカルチャーを、史上最大の劇場映画と同等のレベルで牽引する能力を示したことを評価しています。特に、オリジナル長編アニメーションでこれを実現したことは非常に困難なことです。
文化的影響力とコンテンツ戦略
『KPop Demon Hunters』は文化的な影響力(cultural zeitgeist)に大きなインパクトを与えました。この作品は、Netflixがブレークスルーヒットを生み出し、文化を動かす能力を証明しています。Netflixが長年取り組んできたオリジナル長編アニメーションの継続的な改善の成果を示しているのです。
まとめ
『KPop Demon Hunters』は、Netflix史上最大のヒットとなり、3億回を超える視聴数を記録しました。Billboardで4曲が同時ランクインし、シングアロング上映で推定興行収入第1位を獲得するなど、映画を超えた文化的現象となりました。MattelとHasbroがグローバル共同マスタートイライセンシー契約を締結し、10億ドル超の可能性を持つフランチャイズとして位置づけられています。パンデミック中にソニー・ピクチャーズからNetflixに移行した制作背景、配信で繰り返し視聴されたことが生んだグローバルヒットの理由、そしてNetflixのコンテンツ戦略がどのように文化を動かす力を証明したかは、今後のNetflixのコンテンツ戦略にとって重要な示唆を与えています。
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