ビッグテック最前線.com / 編集部

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Editor Team

2025年11月5日、XPengが人型ロボット「Iron」を発表した直後、世界中のSNSは称賛ではなく、疑惑で溢れかえりました。

「現在の技術で、こんなに滑らかな動きができるはずがない」
「中に人間が入って演技をしているに違いない」

視聴者の多くがこのような結論に達し、「着ぐるみ疑惑」として大炎上。日本でも『スーパーJチャンネル』や『グッド!モーニング』で報道されるほどの国際的なニュースになりました。

疑惑の具体的な論点

SNS上で指摘された「証拠」は主に3つありました:

1. 自然すぎる歩行

Ironは、ファッションモデルのように足を交差させながら歩く「モデル歩き(キャットウォーク)」を披露しました。腰の回転、腕の振り、重心移動が完全に連動しており、ロボット特有の「溜め」や「カクつき」がまったく見られませんでした。

2. 身体的特徴の露出

一部のネットユーザーは動画を拡大解析し、以下を指摘しました:

  • 「背中のカバーの下に人間の下着のライン(ブラジャーの紐のようなもの)が見える」
  • 「頭部の側面に人間の耳の輪郭が浮き出ている」

3. 過去の事例からの類推

過去にロシアの技術フォーラムで「最新ロボット」として紹介されたものが実は着ぐるみだった事例があり、この記憶が懐疑的な見方を補強しました。

「不気味の谷」の逆転現象

この現象は、ロボット工学における「不気味の谷(Uncanny Valley)」の新たなフェーズとして注目されています。

通常の「不気味の谷」は、「人間に似ているが非なるもの」に対する嫌悪感を指します。しかし、今回は逆のことが起きました。Ironはあまりに人間に似すぎていたため、ロボットとしてのアイデンティティそのものが否定されたのです。

前代未聞の証明行動:ロボットを切り開く

疑惑が「炎上」状態となり、企業の信頼性を脅かす問題へと発展したことを受け、XPengのCEO He Xiaopeng氏と開発チームは、まったく異なるアプローチを選択しました。物理的な証拠を、その場で見せるという方法です。

証明方法①:脚部素材の切開

最初に行われたのは、ロボットの脚部を覆っていた柔軟な素材にハサミを入れるという行為でした。
エンジニアが躊躇なく素材を切り裂くと、その下から現れたのは:

  • 無数の配線
  • 金属製のアクチュエーター
  • カーボンファイバー等の複合素材で構成された骨格

そして驚くべきことに、その状態でロボットを再び歩行させました。

証明方法②:内部構造の完全公開

背中のファスナーを開けると、内部のメカニズムが露出。そこには、高負荷なAI処理を行うための冷却ファンが高速回転しており、その排気音や機械的な駆動音がマイクを通じて確認されました。

これは、中に生身の人間が入っていれば耐え難い環境であることを示唆しています。

なぜEVメーカーが人型ロボットを作るのか?

炎上騒動の裏には、もっと大きなストーリーがあります。なぜ、急成長中のEVメーカーが人型ロボット開発に本気なのか?

XPengのCEO He Xiaopeng氏は、同社の企業定義を「自動車メーカー」から「グローバルな具身知能企業(Global Embodied Intelligence Company)」へと再定義しました。

「具身知能」とは何か?

「具身知能(Embodied Intelligence)」とは、AIが物理的な「身体」を獲得し、現実世界で直接作用する技術概念です。

XPengのビジョンでは:

  • 電気自動車(EV) は「車輪のついたロボット」
  • 人型ロボット は「二足歩行するAIエージェント」

両者は、バッテリー管理システム、熱制御、モーター駆動、環境認識のためのAIモデルという中核技術を共有しています。つまり、EVで培った技術基盤がそのままロボット開発に転用できるのです。

4つの主要AIアプリケーション

XPengは、2026年の量産化を目指す4つの主要AIアプリケーションを発表しました:

  • 第2世代VLA(Vision-Language-Action)モデル:視覚情報を言語的に理解し、行動へ変換するAIモデル
  • ロボタクシー:完全無人運転サービス
  • 空飛ぶクルマ:eVTOL(電動垂直離着陸機)
  • 人型ロボット「Iron」:汎用労働力を代替するヒューマノイド

これらすべてが「具身知能」という概念でつながっており、XPengが単なるEVメーカーではなく、AI×ハードウェアの統合企業へと進化していることを示しています。

XPengの急成長が示す説得力

この野心的なビジョンを支えているのは、XPengの驚異的な業績です。

2025年Q3決算では:

  • 車両配達台数:116,007台(前年同期比+149%)
  • 総売上高:203.8億人民元(約4,076億円)(前年同期比+101.8%)
  • 粗利益率:20.1%(初めて20%を突破)

この成長は、XPengがEV市場で確固たる地位を築いていることを示しています。そして、その製造ノウハウとサプライチェーンを人型ロボットに転用しようとしているのです。

まとめ:炎上が証明した「本物」の技術力

XPengの「証明行動」は、危機管理とマーケティングが融合した見事な事例です。

皮肉なことに、「着ぐるみ疑惑」という炎上が、最終的にはXPengの技術力と「具身知能企業」としてのビジョンを世界に知らしめる結果となりました。

EVで培ったバッテリー技術、モーター制御、AI認識技術は、そのまま人型ロボットに応用可能です。TeslaがOptimusを開発しているのと同様に、XPengもこの流れに乗り、しかも独自の「具身知能」というビジョンで差別化を図っています。

2026年の量産化が実現すれば、私たちの労働環境や生活空間は根本から変わる可能性があります。