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AIの「実験段階」から「普及段階」へ:リサ・スーCEOが描く未来

2026年1月、ラスベガスで開催されたCES(Consumer Electronics Show)2026において、AMDのリサ・スーCEOは衝撃的な発言を行った。

「過去数年間のAIイノベーションの速度とペースは信じられないほどでしたが、今夜の私のテーマは『皆さんはまだ何も見ていない(本番はこれからだ)』ということです」(”Although the rate and pace of AI innovation has been incredible over the last few years, my theme for tonight is you ain’t seen nothing yet.”)

そして、さらに具体的な数値を示した。

「AIをあらゆる場所で可能にするために、我々は今後数年間で世界の計算能力をさらに100倍、今後5年間で10ヨタフロップス以上に増やす必要があります」(”So to enable AI everywhere, we need to increase the world’s compute capacity another 100 times over the next few years to more than 10 yottaflops over the next five years.”)

「ヨタフロップス(Yottaflops)」とは、1秒間に10の24乗回(1,000,000,000,000,000,000,000,000回)の浮動小数点演算を処理できる計算能力を指す。これは現在の世界の計算能力の100倍に相当する規模だ。

リサ・スーCEOは、AIの利用者が10億人を超え、次は50億人規模になると予測。AMDはこの需要に応えるため、クラウドからエッジまで全方位の計算基盤を提供すると宣言した。

メモリ需給逼迫の現実:AI企業が買い占めるDRAM

しかし、この「10ヨタフロップス時代」の到来は、一般消費者にとって予想外の副作用をもたらしている。

OpenAI、Anthropic、Google、MetaなどのAI企業が、大規模なデータセンターのサーバーを動かすためにDRAMメモリを大量購入しているのだ。世界最大のメモリメーカーであるSamsung、SK Hynix、Micronは、消費者向け製品からリソースをシフトし、AI企業とのより収益性の高い取引に集中している。

OpenAIは、Stargateプロジェクトのために、SK HynixとSamsungと契約し、月間最大90万個のDRAMを調達している。Micronは、消費者向けブランド「Crucial」を廃止し、予算重視のSSDとRAMキットのラインを終了。「より大きく、戦略的な顧客(AI企業)への供給とサポートを改善」すると発表した。

ゲーミングPC価格の急騰:500%の衝撃

この結果、RAM価格が過去数ヶ月で急騰している。

ゲーミングPCメーカーのCyberPowerPCは、2025年10月1日以降、ゲーミングPCの構築コストに直接的な影響があると発表。「最近、グローバルメモリ(RAM)価格が500%急騰し、SSD価格が100%上昇した」と明かした。

モジュラーPCメーカーのFrameworkは、DDR5 RAMモジュールの価格を再調整。8GBバリエーションは60ドルから80ドルに、16GBオプションは120ドルから160ドルに、32GBバリエーションは240ドルから320ドルに増加。48GBオプションの価格は、2025年6月時点の240ドルから620ドルへと2倍以上に跳ね上がった。

サンフランシンスコベイエリアのCentral Computersなどの店舗は、市場価格でRAMを販売し始めている。シーフードレストランの「本日の獲物」のように、日々変動する価格で販売。「コストは日々変動しており、メーカーとディストリビューターが限られた供給と高い需要に対応しているため、現時点では固定価格を表示できません」というメッセージが店頭に掲示されている。

幅広いデバイスへの影響:スマートフォンからRaspberry Piまで

影響はゲーミングPCだけにとどまらない。

IDCのJeff Janukowicz氏は「今日のデジタル社会のあらゆる部分にDRAMが組み込まれている」と指摘。ラップトップ、スマートフォン、ゲーム機、スマートTV、自動車、さらにはSSD内の少量まで、あらゆるデバイスにDRAMが組み込まれている。

Raspberry Piは、メモリコストの高騰を相殺するため、複数のシングルボードコンピュータの価格を引き上げた。Raspberry Pi 4とRaspberry Pi 5に影響し、モデルとRAM容量に応じて5ドルから25ドル増加。16GBメモリバリエーションのCompute Module 5も20ドル引き上げられ、現在140ドルから開始している。

Raspberry Pi CEOのEben Upton氏は「AIインフラの展開による競争から生じる現在のメモリ価格への圧力は痛ましいものの、最終的には一時的なもの」と述べたが、現実は厳しい。

メモリ不足の長期化:2027年まで続く見通し

国際データコーポレーション(IDC)は、グローバルメモリ不足が「2027年まで長く続く」と予測している。これは「安価で豊富なメモリとストレージの時代の終わり」を示唆している。

Micron CEOのSanjay Mehrotra氏は、DRAMとNANDフラッシュメモリの「厳しい業界状況」が2026年を通じて、そしてそれを超えて「持続する」と予測。AI需要が需要を押し上げている。Micronは過去四半期の記録的な収益として136.4億ドル(約2.05兆円、1ドル=150円換算)を報告。前年同期比87.1億ドル(約1.31兆円)から大幅に増加した。

構造的な問題:データセンター需要と一般消費者の競合

この問題の本質は、データセンター需要と一般消費者の需要が、同じメモリ供給を巡って競合している点にある。

リサ・スーCEOが提言する「10ヨタフロップス時代」は、確かにAIの普及を加速させる可能性がある。しかし、その実現のためには、膨大な量のメモリが必要となる。AI企業は、より高価格で大量購入できるため、メモリメーカーは自然とAI企業の需要を優先する。

一方で、一般消費者は、ゲーミングPC、スマートフォン、ラップトップなど、日常生活に欠かせないデバイスを購入する必要がある。しかし、メモリ価格の急騰により、これらのデバイスの価格が上昇し、購入が困難になっている。

まとめ:AI時代の光と影

AMDのリサ・スーCEOが提言する「10ヨタフロップス時代」は、AIの普及を加速させる可能性がある。しかし、その実現のためには、膨大な量のメモリが必要となり、データセンター需要と一般消費者の需要が競合している。

RAM価格の500%急騰、SSD価格の100%上昇、ゲーミングPCの価格高騰、Micronの消費者向けブランド「Crucial」の廃止。これらはすべて、AI企業によるデータセンター需要の急拡大が引き起こしている。

IDCは「2027年までメモリ不足が続く」と予測している。一般消費者は、AI時代の「光」を享受する一方で、その「影」として、デバイス価格の高騰に直面している。この構造的な問題は、今後も続く可能性が高い。