ビッグテック最前線.com / 編集部

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日本の給料は名目で過去最高を更新しました。だから世界の中で見ても、自分の稼ぎはそれほど悪くない。そう思っていないでしょうか。ところが、ドルに換算した瞬間に、この前提は大きく揺らぎます。国税庁の統計をもとにした試算では、名目で過去最高の478万円に達した日本の平均年収も、ドルに直すとおよそ3万250ドルにとどまり、世界でも最安の部類に沈むと報じられています(出典: https://housingjapan.com/blog/average-salary-in-japan-and-tokyo/)。

そしていま、フィリピンの20代の高スキルなリモート人材が、日本で働く人の収入を上回る事例まで現れ始めました。稼ぐ力を決める主役は、どこに住んでいるかから、何語でどんな武器を持って売るかへと移りつつあります。本稿では、この逆転を給料・英語・AIという三つの角度から読み解き、日本人がこの流れに飲まれる側ではなく、乗る側に回るための道筋を整理します。

発展途上国は賃金が安いという常識は、もう過去の話

日本の給料が、フィリピンの20代に抜かれ始めている。そう聞いて、にわかに信じられるでしょうか。長らく私たちは、成熟したG7の一員である日本が、東南アジアの新興国に対して賃金で優位に立つのは当たり前だと考えてきました。ところが、その常識はいま静かに崩れつつあります。円安、長く続いた賃金の伸び悩み、そしてドル建てのリモートワークの拡大が重なり、フィリピンの高スキルなリモート人材が、日本で働く労働者を上回る稼ぎを得る事例が現れているのです。

これは単なる為替の綾ではありません。稼ぐ力を決める主役が、どこに住んでいるかから、何語でどんな武器を持って売るかへと移り変わっている、という構造の話です。以下では、給料・英語・AIという三つの観点から、この逆転を読み解いていきます。

名目過去最高でも、ドルで見れば世界最安級

まず事実から押さえましょう。国税庁の民間給与実態統計によれば、日本の平均年収は名目で過去最高の478万円に達しました。数字だけを見れば朗報です。ところが、これを2026年4月下旬のおよそ1ドル158円で換算すると、年収はわずか約3万250ドルにしかなりません。中央値に至っては約2万2248ドルで、労働人口の半分がこの線を下回っています。

さらに厄介なのは、名目賃金の上昇がインフレにほぼ食われてしまっている点です。日本の実質賃金、つまり物価上昇分を差し引いた実際の購買力は、13か月連続のマイナスを経て、ようやくプラスに転じたばかりです。累進課税と社会保険料を差し引けば、手取りは額面の7割ほどまで目減りします。過去最高と世界最安級が同居している、この状態こそが逆転の出発点です。

東京平均すら抜かれるという現実

対して、フィリピンのリモート人材の相場はどうでしょうか。採用プラットフォームのデータでは、経験5〜8年の上級DevOps(開発と運用を連携させて効率化する手法)エンジニアで年5万8800〜8万7600ドル、フロントからバックエンドまで一人で担う上級フルスタック開発者で年5万2800〜7万8000ドルという典型的な水準が示されています。日本で最も給与水準の高い東京の平均でも年3万9200〜4万3700ドルであることを思えば、専門職の上位では、フィリピンのリモート人材が東京の平均をも上回っていることになります。

ここで強調したいのは、フィリピンが安いから逆転したのではない、という読み方です。むしろ、円安と国内市場への閉じ込めによって、日本人が世界の基準に対して据え置かれています。同じエンジニアの仕事でも、ドル建ての世界市場に売る側は倍近くを取り、円建ての国内に留まる側は名目で最高でも世界最安級に沈む。問題は能力ではなく、売る市場と通貨なのです。

逆転の原因は、英語という時給の壁

では、なぜフィリピンの人材は世界市場に売れて、日本人は売れないのでしょうか。最大の分かれ目は英語です。

日本96位、フィリピン28位が意味すること

世界最大級の語学教育企業が毎年公表するEF英語能力指数の2025年版で、日本は96位、スコア446で非常に低い水準の帯に沈みました。これはアフガニスタンと同列で、11年連続の下落、アジアでも18位という位置です。一方のフィリピンは28位、スコア569で高い水準の帯に入り、アジア2位につけています。

この差は、教養の問題ではありません。英語ができれば、アメリカ・イギリス・オーストラリアといったドル建て市場の案件を、代理店を挟まずに直接請けられます。契約交渉も、要件のすり合わせも、成果物の納品も、すべて英語で完結できます。逆に言えば、日本の英語の壁は守りのように見えて、実際には世界の時給表からの締め出しとして働いています。腕がどれほど良くても、国内市場に隔離されている限り、国内価格の天井から出ることはできません。

AI時代こそ英語が効く理由

AI翻訳がこれだけ進んだのだから、もう英語はいらないのではないか。そう考える人は多いでしょう。ですが、ここに落とし穴があります。生成AIは、精密な言語で書かれた指示、いわゆるプロンプトほど高い品質を返します。英語で思考し、英語で指示できる人材は、AIツールをより効果的に使いこなせます。つまりAI時代は、英語が不要になるどころか、英語がそのまま時給を押し上げる要素になりうるのです。英語は単なる語学ではなく、アクセスできる市場と単価そのものを左右する要素だと言えます。

逆襲の鍵は、AIソロプレナー

ここまでは、やや耳の痛い話が続きました。ですが本題はここからです。この構造は、日本人にとって絶望ではなく、むしろ好機の入り口でもあります。ここで言うAIソロプレナーとは、大きな組織を持たず、AIを駆使して一人で事業を営む起業家を指します。

AIが技術労働を民主化した

かつてグローバルな外部委託は、付加価値の低い事務作業と、欧米や東欧に留保される付加価値の高いソフトウェア開発とに二分されていました。ところが生成AIが、この境界を壊しました。CursorやClaude Code、n8nといった開発・自動化ツールによって、これまで専門職に閉じていた実装や自動化を、一般のリモート人材でもこなせるようになったのです。事務系のアシスタントが、異なるシステム同士をつなぐAPI連携や、プログラムの不具合修正、自動化の仕組みづくりまで担う。そうした光景が、すでに現実になっています。

費用の面でも、この変化は鮮明です。英語が使える海外の人材は、事務を代行するバーチャルアシスタントで月355〜625ドル、上級の開発でも雇用代行(EOR、海外の人材を自社の代わりに雇用してくれる仕組み)を通した全込みで月2500〜5950ドルという水準です。国際労働機関(ILO)も2026年の報告で、AIによる分断は失業よりも先に賃金へ表れ、AIスキルを持つ層は賃金が伸び、労働市場は二極化していくと指摘しています。

使われる側から、使う側へ

ここで視点を反転させたいと思います。フィリピンの話は、日本人にとって脅威の物語ではなく、使う側に回るための実践の手引きです。AIに実務を任せ、英語で世界に売る。大きな組織や重い固定費を持たず、浮いた資本を製品づくりと集客に投じる。アメリカではサム・アルトマンが、一人で10億ドル規模の会社が現れると語り、日本でもAIによる開発支援を活用して一人で高い収益を上げる実例が出てきました。

同じ武器、つまり英語とAIと海外の人材は、日本人にも等しく開かれています。先に動き出したのがフィリピンの若手だっただけで、同じ鍵は日本人の手のなかにもあるのです。

抜かれた側で終わらないために

改めて整理します。第一に、円安とスキルの組み合わせによって、フィリピンの上級リモート人材が日本の平均、さらには東京の平均をも上回る、給料の逆転が起きています。第二に、その主な原因は英語力の差にあり、世界96位の日本は、ドル建ての案件と時給から構造的に締め出されています。第三に、AIによる技術労働の民主化により、英語が使える海外人材と組めば一人でも世界と戦え、日本人も使う側に回れる時代になりました。

ここから見えてくるのは、稼ぐ力を決める主因が立地から、言語とAI活用の掛け合わせへと移ったという読み方です。ただし断定は避けたいと思います。フィリピンの給与データは採用市場発のもので上振れの余地があり、AIによる実務の代替も職種によって差が大きいからです。それでも、円安と英語の壁が続く限り、逆転の圧力は強まりこそすれ、弱まりはしないでしょう。

大切なのは、これを他人事の統計として眺めるのか、それとも自分の仕事や自社の値付けに引き寄せて考えるのか、という姿勢の違いです。抜かれた側で立ち尽くすのか、それとも英語とAIという同じ武器に手を伸ばして使う側に回るのか。その分かれ道に、私たちはいま立っています。まず、何をひとつ始めるか。その一歩が、来年の自分の立ち位置を静かに、しかし確実に変えていくはずです。

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