ビッグテック最前線.com / 編集部

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Editor Team

AIを導入したから人員を減らす。この2年ほど、多くの企業がその判断を下してきました。ところがいま、その判断を撤回する動きが相次いでいます。人材分析会社Orgvueの調査では、AI導入を理由に人員を削減した経営者のうち、実に55%が「あの判断は間違いだった」と認めています。

もしあなたの会社が「この業務はAIで十分だ」と判断して人を減らしたとして、半年後にそれを誤りだったと認める確率が5割を超えるとしたら、いま本当に切りますか。AI時代の人員判断は、削減の是非ではなく、削減した後に何が起きるかを見積もれるかどうかの問題になりつつあります。

数字で見る逆流:39%が削減し、55%が後悔している

Orgvueが国際的に中堅・大企業の経営層および意思決定者1,000人を対象に行った調査によると、AI導入を理由に人員削減を実施した経営者は39%。そのうち55%が、その判断は誤りだったと回答しています。さらに34%は、AI導入が直接の原因で従業員が自ら辞めていったと認めています。

削減の撤回は、意思表明にとどまりません。人材サービス大手Robert HalfがCNBCに提供したデータでは、AIを主因に職を廃止した米国の採用担当者の32%が、後に同一または類似のポジションで再雇用しています。3社に1社が、いったん消した椅子を戻しているという計算です。

なぜこうなるのか。共通するのは、AIが担える範囲を過大に見積もり、人間が担っていた仕事の中身を過小に見積もっていた、という構図です。

IBM:HR業務の94%を自動化しながら、新卒採用を3倍に

象徴的なのがIBMです。同社はAIによってHR業務の94%を処理できるようになりました。ところが、残る6%で機械は機能しませんでした。倫理的な判断や例外処理を含む領域で、最終的に人間の介入が必要になったのです。

そしてIBMは業界の流れに逆行し、米国のエントリー職(新卒相当)の採用を3倍に増やす計画を示しました。同社のChief HR Officerであるニックル・ラモロ氏は、その理由をこう述べています。

If we don’t continue to invest in entry-level hiring… the talent pool will simply dry up. (新卒採用への投資を続けなければ、人材のプールは単純に枯渇してしまう)

注目すべきは、新人の役割が消えたのではなく再定義された点です。定型的な事務作業はAIが担う。若手が担当するのは、HRチャットボットが取りこぼした案件への介入と修正、そして顧客対応です。AIが処理できなかった残りを扱う仕事が、そのまま次世代の育成の場になっている構図と言えます。

「AIに最初に奪われるのは新人の仕事だから、新卒採用は減らすのが合理的」。この一見もっともらしい前提を、IBMは正面から否定したことになります。

Ford:暗黙知はAIに移せなかった

より高い代償を払ったのがFordです。同社は自動品質管理AIを導入しましたが、ベテランエンジニアが長年蓄積してきた暗黙知をAIが捉えきれず、品質問題が続発。数十億ドル規模のコストを抱えることになりました。

Fordの車両ハードウェアエンジニアリング担当VPであるチャールズ・プーン氏の言葉は、AI導入を検討するすべての企業にとって示唆的です。

Artificial intelligence is a fantastic tool, but it’s only as good as the information you use to train it. (AIは素晴らしい道具だが、その質は学習させた情報の質を超えない)

We mistakenly believed that simply by implementing AI and feeding it our design requirements, we would end up with a high-quality product. (AIを導入して設計要件を与えさえすれば、高品質な製品が出来上がると誤解していた)

問題の核心はここにあります。AIを訓練するために必要な知見を持っていた当のベテランが、すでに会社を去っていたのです。Fordは約350人のベテランエンジニアを呼び戻し、その結果、JD Powerの2026年 Initial Quality Study(初期品質調査)で2010年以来初めて首位に返り咲きました。

暗黙知は、マニュアル化されていないからこそ暗黙知です。そしてマニュアル化されていない知識は、学習データにもなりません。人を切るという行為は、単に人件費を減らすのではなく、AIに学習させるべき情報源そのものを消してしまう場合があります。

現場サービスでも起きている撤回

同じ構図は現場のサービス業務でも見られます。オーストラリアのコモンウェルス銀行(CBA)は、40人超のコールセンター職員を削減しAI音声応答システムに置き換えると発表しました。ところが、通話量が減るどころか増加。従業員に残業を依頼し、チームリーダーが電話対応に回る事態となりました。銀行は削減の決定を撤回し、判断にあたって関連するすべての事情を考慮できていなかったと認めています。

AIが一次対応を担っても、解決できなかった問い合わせは人に戻ってきます。むしろ、いちどボットに阻まれた顧客は、より複雑で感情的な状態で人間の窓口に到達します。総業務量は減らず、難易度だけが上がるという逆説が起こり得るのです。

専門家の予測は割れている

将来像についての見解は一致していません。AnthropicのDario Amodei氏は、エントリー職の最大50%が5年で消えると予測します。一方、OpenAIのSam Altman氏は労働市場の終末は来ないとし、MetaのMark Zuckerberg氏も大量のAI起因解雇は不可避ではないという立場です。

予測が割れているという事実自体が、重要な情報です。少なくとも現時点で、確信を持って大規模削減に踏み切れるだけの根拠は存在していません。そして現実の企業行動は、一律の代替ではなく、代替できる範囲の見極めへと軸足を移しつつあります。

まとめ

今回の逆流から読み取れることは、3点に整理できます。

  • 第一に、AI導入による人員削減は、少なくない確率で撤回されています。Orgvueの調査では削減した経営者の55%が誤りを認め、Robert Halfのデータでは32%が同一・類似職で再雇用しています。判断の失敗が例外ではなく、相当な頻度で起きているということです。

  • 第二に、AIが処理できない残りの領域こそが、人間の仕事の本質でした。IBMの6%、Fordの暗黙知、CBAのボットが対応しきれなかった入電。いずれも自動化率の高さとは別次元にある、判断・例外処理・文脈理解の領域です。そしてこれらは、人を切った後になって初めて可視化されます。

  • 第三に、人を切ることのコストは人件費の裏返しではありません。Fordの事例が示すとおり、退職した人材が持ち去るのは労働力だけでなく、AIに学習させるべき情報源そのものです。いちど失えば、再取得には数十億ドル規模の代償と、呼び戻しのための追加コストがかかります。

自社に置き換えて考えるとき、問うべきは「この業務はAIで代替できるか」ではなく、「AIが失敗したとき、それに気づいて修正できる人が社内に残っているか」ではないでしょうか。その問いに答えられないまま人員を減らした企業が、いま採用に戻っています。

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