ビッグテック最前線.com / 編集部

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Editor Team

AIを使って稼ぐと聞いて、どのくらいの金額を思い浮かべるでしょうか。日本ではいまも、月5万円、月20万円といった副業の話が中心かもしれません。ところが米国では、従業員ゼロで年2.4億円、18歳の2人で年45億円といった事例が実名とともに語られています。2026年9月、米国の起業家育成プログラムである Founder Institute が、こうした1人起業の実例とその実態を検証する記事を公開しました(出典: https://fi.co/insight/solocorn-companies-real-examples-of-one-person-businesses-built-with-ai)。同じ時期、ウォール・ストリート・ジャーナルは、AIを理由に人を減らす米スタートアップの動きを報じています。個人が桁違いに稼ぐ話と、会社が人を増やさなくなる話。本記事ではこの2つを並べて読み解き、日本の個人事業主や中小企業が取り入れられる考え方を整理します。

1人で稼げる金額が、桁で変わった

従業員ゼロで、年2.4億円

オランダの開発者 Pieter Levels は、フルタイムの従業員を1人も雇っていません。一時的に外注を使うことはあっても、常勤のチームは持たない運営です。AIで証明写真をつくるサービス PhotoAI は、2023年2月の公開から約18か月で月商10万ドルを超え、年換算で約160万ドル、日本円にして約2.4億円に達しました(1ドル150円で換算)。日本の平均年収を460万円とすれば、およそ52年分を1年で稼いでいる計算になります。

注目したいのは、金額そのものより記事が添えた一文です。

there is no permanent team hiding behind the numbers(数字の裏に、常勤のチームは隠れていない)

1人でやっていると言いながら裏に20人いる、という話ではありません。しかも本人は数字を公開しながら運営しています。

なお、記事は月商を10万ドル超、年換算を約160万ドルと書いており、単純に12倍した120万ドルとは一致しません。そのため本稿では年2.4億円を主な数字として扱います。本人が運営するサービス全体の売上(年数百万ドル規模)は自己申告で第三者の監査がなく、記事自身も方向性を示す数字として読むよう促しているため、ここでは採り上げません。

18歳2人で、年45億円

もう1つの例は、写真を撮るとカロリーが表示されるアプリ Cal AI です。開発したのは18歳の2人、Zach Yadegari と Henry Langmack です。2024年5月の公開から1年で100万ダウンロード、2年で1,500万ダウンロードを超え、年商は3,000万ドル、約45億円に達しました。外部からの資金調達はしておらず、のちに MyFitnessPal に買収されています。

彼らはAIモデルを自分で訓練していません。既存のAIを組み合わせ、消費者向けのアプリに仕立てただけです。記事はこの事例について、10億ドルの会社ではないものの、この規模の売上には人数が必要だという従来の前提を覆している、と評価しています。

1人でユニコーン企業は、まだ存在しない

ここで一度、冷静になる必要があります。ユニコーン企業とは、企業価値が10億ドル(約1,500億円)を超える未上場企業のことです。従業員1人でそこに到達する会社はソロコーンとも呼ばれ、OpenAI の Sam Altman が「10人で10億ドル、次は1人で10億ドル」と語ったことで、一気に広まりました。

しかし同じ記事は、次のように明記しています。

None is yet a verified one-person billion-dollar company.(検証された、1人による10億ドル企業はまだ1社も存在しない)

この記事は Founder Institute が自社プログラムへの参加を呼びかける目的で書いたもので、事例の数字は明記されているものの、論調には利害があります。1人起業の夢を語る動機がいちばん強い側が、まだ存在しないと認めている点は重く受け止めるべきでしょう。

120億円で売れた会社には、8人いた

最も近い例が Base44 です。AIでアプリをつくるサービスで、創業からわずか6か月で、ホームページ作成大手の Wix に8,000万ドル、約120億円の現金で売却されました。創業者の Maor Shlomo は外部から資金を一切調達しておらず、唯一の株主でした。さらに、売却後の業績目標を達成すれば最大9,000万ドルが追加で支払われる条件も付いています。

ただし記事によれば、Base44 には従業員が約8人いて、その8人も売却時の分配を受けています。記事自身がこれを1人の会社ではなく、1人が所有する会社だと整理しています。

本当にすごかったのは取り分

ここが最も誤解されやすい点です。すごいのは人数ではありません。半年でつくった会社の売却益が、持分(株式の保有割合)を薄めないまま創業者に入ったことです。つまり、株を投資家に渡さなかったことにあります。

1人でやることに憧れて会社を辞めるのと、持分を薄めない設計にするのとでは、必要な行動がまったく異なります。前者は根拠の乏しい理想に賭ける話ですが、後者は今日から選べる設計の話です。

成功例に共通する3つの条件:いずれも、やらないと決めること

記事は事例を横断して、共通点を3つ挙げています。

1つ目は初日から課金することです。無料で配って後から広告で回収する、というやり方をとらず、最初のユーザーの支払いがそのまま事業の資金になります。

2つ目は既存のAIの上に作ることです。自分でAIを発明しようとせず、すでにあるAIを借りて使うことで、開発のコストと時間を大幅に圧縮できます。

3つ目はすでに持っている顧客への経路に乗せることです。新しく客を探すのではなく、自分のSNSのフォロワー、アプリストアで口コミが広がる仕組み、特定の悩みに鋭く応える商品など、手元にある経路を使います。

記事は最後に、この一覧に含まれていないものとして、ベンチャーキャピタル(新興企業に出資する投資会社)からの資金、大きなチーム、長期間の運転資金を挙げています。お金も人も時間も、共通点には入っていないのです。

3つの事例に当てはめると、Levels は決済サービス(Stripe)と自分のSNSだけで事業を回しています。Cal AI は既存のAIを組み合わせ、アプリストアの流通に乗せました。Base44 は外部から資金を調達せず、持分を丸ごと残しました。いずれも何かを足す話ではなく、引く話です。

会社の側で起きていること

同じ時期、会社の側では逆方向の動きが進んでいます。2026年9月21日のウォール・ストリート・ジャーナルによると、文章を入力するだけでホームページができるサービスを提供する米 Butternut AI は、従業員がピーク時の9人から4人に減りました。昨年末にエンジニア5人を解雇しており、理由はAIエージェント(人の指示を受けて自律的に作業をこなすAI)が同じ仕事を、しかも24時間できると判断したためです。それでも製品は伸び、有料顧客は約1万に達しています。

米 Business Insider の取材では、7人で広告動画を手がける Arcads AI の社員が「AIを使えば、7人でも50人のチームのように働ける」と語っています。正社員6人の Oleve は、全員の業務の4割以上がAIに補強されるか、AIが担っていると説明しています。大手でも、暗号資産取引所の Coinbase が2026年5月に約14%の人員削減を発表し、少人数のチームで実現できることが劇的に変わったと理由を述べています。

採用データも同じ方向を示しています。採用管理ソフトを提供する Ashby が、ベンチャー出資を受けたスタートアップ1,200社超、約32,000件の採用、1,100万件の応募を分析したところ、職名にAIが入る求人は2%から4%へ倍増し、求人全体の約33%がAIに言及していました。社名のウェブアドレスが .ai で終わるスタートアップも、2023年の5%から2025年末には16%に増えています。

会社が人を増やさなくなることと、個人が桁違いに稼ぐこと。この2つは別々の現象ではなく、同じAIがもたらす表と裏だといえます。

いま言えることと、留保すべき点

報道された事実から言えるのは、1人あたりの売上の上限が明らかに上がったということです。そのうえで筆者の見立てを述べれば、真似すべきは人数を減らすことではなく、課金の順番と持分の設計です。

一方で、留保すべき点も2つあります。1つは、この戦略が万能ではないことです。WSJ の記者の投稿では、この戦略は特定の種類の会社でしか機能せず、小さいままでいられる期間にも限界がある、という投資家の指摘が紹介されています。もう1つは労働市場への影響です。人員を削った当事者である Lindy AI の担当者自身が、削減後も以前の業務範囲はカバーできていると言いながら、労働市場への影響は深く憂慮すべきものだと認めています。

まとめ

AIによって、1人あたりが稼げる金額は確かに桁違いになりました。従業員ゼロで年2.4億円、18歳の2人で年45億円という事例は、売上の規模には人数が必要だという前提がもはや当てはまらないことを示しています。

ただし、1人で10億ドル企業という言葉は先行しているだけで、実際にはまだ1社も存在しません。約120億円で売れた Base44 にも従業員は約8人いました。見るべきは人数ではなく、創業者が持分を手放さなかったという点です。

そして成功例に共通するのは、初日から課金する、AIは自分で作らず借りる、すでにいる客に届ける、という3つの条件でした。いずれも英語力や大きな資本を必要とせず、日本の個人事業や中小企業が長く大切にしてきた商売の基本そのものです。華やかな成功談に憧れる前に、自分の事業で最初に課金できるのは誰か、手元にどんな顧客への経路があるかを見直してみてはいかがでしょうか。最先端のAI起業の結論が商売の基本に戻ってきていることは、日本の読者にとって自信を持ってよい点だといえます。

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