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「生成AIの登場は、Googleの検索ビジネスを終わらせるのではないか?」

過去2年間、デジタルマーケティング業界ではこのような議論が絶えず交わされてきました。チャットボットが検索エンジンに取って代われば、Googleの収益の柱である検索連動型広告のモデルが崩壊するというシナリオです。

しかし、2025年10月29日に発表されたAlphabet(Googleの親会社)の2025年第3四半期決算は、この懸念をデータで一掃しました(出典: https://abc.xyz/investor/ )。

同社は史上初めて、四半期売上が 1000億ドル(約15兆円) を突破しました。その原動力となったのは、皮肉にも市場が脅威とみなしていたAIそのものでした。本記事では、この歴史的な決算内容を深掘りし、マーケターが注目すべきAI Overviews(旧SGE)と広告収益の共存関係、そしてこれからのSEO戦略について解説します。

1. 1000億ドル達成:Google Q3決算が示すAIと広告の共存

1-1. 決算ハイライト:市場予測を大幅に上回る売上1023億ドル

Alphabetの2025年Q3決算は、記録的な内容となりました。連結売上高は1023億ドル(前年同期比16%増)に達し、アナリストのコンセンサス予測であった約998億ドルを大きく上回りました。

利益面でも、EPS(1株当たり利益)は3.09ドルとなり、市場予想を0.83ドル上回る好決算を達成しています。この結果は、GoogleのビジネスがAI投資のフェーズから、明確な収益化のフェーズへと移行したことを示しています。

1-2. CEOが語る「AIがビジネス成果を生んだ」の真意とは

サンダー・ピチャイCEOは決算会見で、「AIが全社的に実際のビジネス成果を生み出しているのを目の当たりにしています」と述べました。

5年前、同社の四半期売上は500億ドルでした。そこから売上を倍増させ、1000億ドルの壁を突破する過程において、AIはもはや実験的なプロジェクトではなく、成長を牽引する中核エンジンとなっています。

特に注目すべきは、全セグメントでの成長加速です。売上高の前年同期比成長率は、Q1の12%、Q2の14%から、Q3では16%へと加速しています。これは、AI機能の本格展開と業績向上が連動していることを裏付ける強力な証拠と言えます。

2. AIは検索広告を破壊したか?

2-1. 懸念の払拭:検索広告売上が前年同期比15%成長した理由

マーケターにとって最大の関心事は、検索広告(Google Search & other)の動向でしょう。結果として、この分野の売上は566億ドル(約8.5兆円)となり、前年同期比で15%という力強い成長を記録しました。

AIチャットボットが検索を奪うという懸念に反して、Google検索の利用は衰えるどころか拡大しています。これは、GoogleがAIと対立するのではなく、検索体験そのものにAIを組み込む戦略を選んだ成果です。

2-2. AI Overviews(旧SGE)は広告収益を奪わなかったのか

GoogleはAI Overviews(旧SGE)を200カ国以上で展開し、すでに数十億回利用されています。

検索結果のトップにAIによる回答が表示されれば、ユーザーはWebサイトを訪問せず、広告もクリックしなくなるのではないか。このカニバリゼーション(共食い)への懸念に対し、15%の増収という事実は明確な回答を示しました。

実際には、AI Overviewsは広告収益を損なっていません。むしろ、AIによる回答の下や内部に配置された新しい広告フォーマットが機能し、検索意図の高いユーザーを効果的に誘導できている可能性があります。

また、AI検索は従来の検索よりもコストがかかりますが、Googleは自社開発のAIチップ(TPU)とモデル(Gemini)による垂直統合によってコストを吸収しています。その証拠に、欧州委員会による一時的な罰金(35億ドル)を除いた実質的な営業利益率は33.9%に達し、前年同期よりも改善しています。AIは利益を圧迫する要因(マージン・キラー)にはなりませんでした。

2-3. AI時代の新常識「GEO (Generative Engine Optimization)」とは

検索広告が健在である一方で、オーガニック検索の戦い方は変化しています。従来のSEOに加え、 GEO(Generative Engine Optimization:生成エンジン最適化) と呼ばれる概念が重要性を増しています。

AI Overviewsに引用され、信頼できる情報源として提示されるためには、単なるキーワードの羅列ではなく、AIが理解しやすい構造化された情報提供や、一次情報の信頼性がより問われるようになります。マーケターは、AIが回答を生成する際のソースとして選ばれるためのコンテンツ戦略を練る必要があります。

3. YouTube広告とサブスクリプションの強さの秘密

3-1. YouTube広告売上が15%成長した背景

動画広告市場においてもGoogleの優位性は揺らいでいません。YouTube広告の売上は103億ドル(約1.6兆円)で、こちらも前年同期比15%増を記録しました。

YouTubeでもAIによるレコメンデーション精度の向上や、自動生成機能を活用したクリエイティブ支援が進んでおり、これらが広告主のパフォーマンス向上に寄与していると考えられます。

3-2. Google One AIプレミアムがサブスク収益を21%押し上げたカラクリ

広告以外の収益源として急成長しているのが、サブスクリプション分野です。Subscriptions, Platforms & Devices部門の売上は129億ドルで、前年同期比21%増となりました。

この成長を牽引したのは、Google One AIプレミアムプランです。月額20ドルで高性能AI「Gemini Advanced」を利用できるこのプランは、既存のGoogle One会員(ストレージ利用者など)にとって魅力的なアップグレードパスとなりました。

Google Oneの有料会員数は1億5000万人を突破しています。ストレージという実用的なサービスにAI機能をバンドル(セット販売)することで、Googleは消費者へのAI課金という難題をクリアし、新たな収益の柱を確立しました。

4. 2026年に向けたGoogleのAI戦略とマーケティングの未来

4-1. AI Modeのグローバル展開と検索体験の変化

ピチャイCEOは、AI機能を「記録的な速さ」で展開していると語ります。今後、検索画面は単なるリンク集から、ユーザーの目的を達成するためのエージェント的な役割へとさらに進化していくでしょう。

AI Modeのような新機能が一般化すれば、ユーザーは検索画面上でより複雑なタスク(旅行の計画作成や商品の比較検討など)を完結させるようになります。

4-2. マーケターが今から備えるべきこと

Google Cloudの売上が前年比34%増と加速していることからもわかるように、企業のAI導入は急速に進んでいます。

マーケターにとって、これからのGoogle対策は検索順位を上げることだけではありません。以下の視点を持つことが不可欠です。

  • AIとの対話への最適化 (GEO): AI Overviewsに参照される高品質なコンテンツの作成。
  • ファーストパーティデータの活用: AI広告の精度を高めるための自社データの整備。
  • 動画コンテンツの強化: AI時代でもエンゲージメントの高いYouTubeへの投資。

5. まとめ

2025年Q3決算は、Googleが検索の巨人からAIの巨人へと脱皮したことを証明する転換点でした。

  • 検索広告は15%成長し、AIとの共存に成功。
  • サブスクリプションは21%成長し、AIの収益化モデルを確立。
  • クラウドは34%成長し、AIインフラ需要を取り込む。

AIが広告ビジネスを破壊するという予言は外れました。むしろAIは、Googleのエコシステム全体を強化し、収益性を高める触媒として機能しています。私たちマーケターもまた、AIを恐れるのではなく、AIがもたらす新しいプラットフォームの上で、いかにして顧客とつながるかを再定義すべき時が来ています。

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