ビッグテック最前線.com / 編集部

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Editor Team

人型ロボットの開発において、プロトタイプを作ることと量産化することは、まったく異なる難易度の課題です。

XPengのCEO He Xiaopeng氏は「2026年末までに高水準の人型ロボットの大量生産を目指す」と明言。さらに、2030年には100万台という野心的な目標を掲げています。

この目標を支えているのは、Ironの驚異的な技術スペックと、EVメーカーとして培った製造ノウハウです。

驚異的な技術スペック

82の自由度:人間の動きを再現する関節

Ironの最大の特徴は、全身で82の自由度(DoF: Degrees of Freedom)を持っている点です。

  • 一般的な産業用ロボット :6〜7軸
  • 既存の人型ロボット :20〜40軸
  • XPeng Iron :82軸

この違いは、動きの「人間らしさ」に直結します。

特に注目すべきは手の構造です。片手あたり 22の自由度 を持ち、親指の対立運動や指の独立した屈伸が可能。これにより:

  • 卵のような壊れやすい物体の把持
  • ドライバーを使ったネジ締め
  • 針に糸を通すような微細作業

これらすべてに対応できます。

Turing AIチップ:ハイエンドPC 20台分の処理能力

Ironの「脳」にあたる部分には、XPengが自社開発した「 Turing AI Chip 」が搭載されています。

  • 40コアプロセッサ を搭載
  • 最大 2,250 TOPS (Trillion Operations Per Second = 毎秒2,250兆回)の演算能力
  • 比較 :PC向けの最新AIチップ(Intel Core Ultraシリーズ)が100〜120 TOPS程度

つまり、Iron単体で ハイエンドワークステーション約20台分 のAI処理能力を持っていることになります。

この膨大な計算リソースは、82個の関節をリアルタイムで協調制御し、同時に視覚情報の処理、自己位置推定、音声対話を行うために不可欠です。

全固体電池:安全性とエネルギー密度の両立

Ironには次世代電池技術である「 全固体電池(All-Solid-State Battery) 」が採用されています。

  • 安全性 :可燃性の液体電解質を使用しないため、発火リスクが極めて低い
  • エネルギー密度 :従来のリチウムイオン電池より高く、同じ重量でより長時間稼働可能

家庭に入り込むロボットとして、安全性は必須の要件です。

エラストマー素材による人工皮膚

全身を覆う「ソフトスキン」には、3Dプリント技術で成形された高性能エラストマー(弾性高分子)が使用されています。

  • 関節の動きに合わせて皮膚のように伸縮
  • タッチセンサー内蔵 :外部からの接触や圧力を検知
  • 人間との接触時に安全に停止したり、適切な力加減で抱擁したりといったインタラクションが可能

量産化への道筋

タイムライン

時期 マイルストーン
2025年11月 Iron 第2世代(プロトタイプ)公開
2025年12月〜2026年Q1 パイオニアユーザー向け実証実験開始
2026年中盤 工場での実地テストと設計最適化
2026年末 大規模量産開始
2030年 100万台目標

ターゲット市場(3フェーズ展開)

  • フェーズ1(2026年〜):工場・物流 自社EV工場や物流センターでの部品搬送、組立支援。まずは管理された環境での実績を積みます。
  • フェーズ2(2027年〜):商業・小売 店舗での受付、商品案内、陳列作業。Ironの「人間らしい外見」は、接客業で顧客に安心感を与えるための重要な機能となります。
  • フェーズ3(2028年以降):家庭 家事支援、介護補助、コンパニオン。安全性とコストダウンが進んだ後の最終目標です。

XPengの製造優位性

XPengの最大の強みは、すでに年間数十万台規模のEVを生産するサプライチェーンと製造ノウハウを持っている点です。

  • 部品共有 :モーター、バッテリー、チップ、センサー類をEVと共有し、調達コストを劇的に引き下げ
  • 製造技術 :「ギガプレス(大型一体成型)」等の技術をロボット骨格製造に応用

競合との比較:Tesla Optimusとの対比

XPeng Ironの最大のライバルは、TeslaのOptimusです。

比較項目 XPeng Iron Tesla Optimus
設計思想 生体模倣と親和性 機能性と生産性
AI脳 2,250 TOPS 非公開
外観 ソフトスキン、人間に近い メカニカル
量産時期 2026年末目標 2025年後半〜2026年

イーロン・マスク氏は「Teslaと中国企業が市場を支配する」と述べており、ロボティクス市場は米中2強の様相を呈しています。

CEOの発言:最も難しい製品

He Xiaopeng CEOは、自らこう語っています:

「IRONの量産は、XPengで取り組んできた中で、おそらく 最も難しい製品 だ」

この発言は、量産化のハードルの高さを物語っていますが、同時にXPengがこの挑戦に本気で取り組んでいることも示しています。

まとめ:EVメーカーがロボット市場を変える

XPeng「Iron」の量産化が実現すれば、私たちの労働環境や生活空間は根本から変わる可能性があります。

82の自由度、2,250 TOPSのAIチップ、全固体電池 -これらの技術は、単なるスペックの羅列ではなく、「人型ロボットが人間と共存する社会」を実現するための基盤です。

2026年末の量産開始、そして2030年100万台という目標。この野望が現実になるかどうか、注目が集まります。