ビッグテック最前線.com / 編集部

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あなたの会社が毎月払っているそのソフト、来年も本当に必要でしょうか。こう問われて、すぐに答えられる人は多くないはずです。ところが海外では、この問いに答えを出し始めた会社がすでに約3社に1社あります。

コンサルティング大手のマッキンゼーは2026年8月、世界調査の最新版を公表し、回答者の32%が「AIのコーディングツールで社内で作れるため、ソフト製品や機能の購入を少なくとも1つ見送った」と答えたことを明らかにしました(出典: https://www.mckinsey.com/capabilities/quantumblack/our-insights/the-state-of-ai)。

AIでソフトが作れるなら、得をするのはエンジニアだと考えるかもしれません。しかし調査を読み込むと、見えてくるのは別の姿です。本稿では、この変化で本当に強くなるのは誰なのかを、データから順に読み解きます。

ソフトは買うものから作るものへ

今回の調査は、マッキンゼーと同社のAI専門部門QuantumBlackがまとめた「The state of AI in 2026: On the road to ROI」です。2026年5月4日から6月8日にかけて、97カ国の1,719人から回答を集めました。回答者の36%は年商10億ドル(約1,500億円)を超える組織に属しており、大企業の動きが色濃く出た調査といえます。なお、日本単独の数字は出ていません。

3社に1社が購入を見送った

冒頭の32%を支えているのが、コーディングエージェントの広がりです。指示を出すと自分で手順を考え、プログラムを書いてくれるAIのことで、これを全社規模で使う組織は全体で約2割、大企業に限れば31%、それ以外では17%でした。調査は、コーディングエージェントが会社に対し、ソフトを買うより自分で作る方向へ背中を押していると結論づけています。

SaaS(インターネット経由で月額料金などを払って使うソフト)の将来をめぐっては、AIを積んだ新興企業に既存のソフト会社が負ける、という筋書きで語られることが多くありました。今回の調査が示すのは、もっと足元の変化です。ソフト会社の手強い競争相手は、同業ではなく、昨日まで契約してくれていた客になりつつあります。マッキンゼーのシニアフェロー、マイケル・チュイ氏も、エージェント型のコーディングツールが、パッケージソフトを買う代わりに一部の開発を社内に移す、より現実的な選択肢をつくっていると指摘しています。

もちろん、32%は1つ以上の購入を見送ったという意味で、ソフト契約を全部やめたわけではありません。それでも、売る側が客は自分では作れないという前提で値段を付けてきた構図が揺らいでいるのは確かです。

業界で倍以上の差がある理由

買わずに作った割合は、業界によって大きく異なります。テクノロジー41%、ヘルスケア39%、専門サービスとエネルギー・素材がともに38%、金融36%、メディア・通信34%、製薬33%、旅行・物流31%、消費財・小売29%、建設28%、先端製造27%と続き、保険は19%、公共は17%にとどまりました。

社内に技術人材を抱えやすく、業務を自分たちで細かく設計してきた業界ほど動きが早く、規制や調達のルールが厳しい業界ほど慎重だと読めます。自社や取引先がどちら側にいるのかを把握しておくだけでも、来年のソフト契約の交渉の見え方は変わってくるでしょう。

作ることはタダではない

では、作れば安く済むのでしょうか。調査は、ここに意外な結果を示しています。

儲かっている会社ほどAI代に悩んでいる

回答者の約20%が、AIの運用コストを理由にAIの利用を制限したと答えました。この運用コストにはトークン代が含まれます。トークンとはAIが文章を処理する際の単位で、多くのAIサービスはこの量に応じて利用料がかかります。業界別ではテクノロジー25%、金融24%が多く、消費財・小売と公共は12%でした。

注目したいのは、AIで実際に成果を出しているAIハイパフォーマーの数字です。本業の利益(EBIT、利払い前・税引き前の利益)の5%以上をAIによるものとし、その効果を大きいと評価する組織で、全体の約6%にとどまります。この6%のうち18%がコーディングエージェントの利用をコストで制限しており、それ以外の会社の6%と比べて約3倍です。チャットボットでは10%と9%で、ほとんど差がありません。

同じハイパフォーマーは、約半数が作れるから買わなかったと答え(それ以外は31%)、コーディングエージェントの全社展開も40%と、それ以外の20%の2倍に達しています。作る側に回って使い込んでいる会社ほど、利用料がかさんでいるわけです。

固定費から従量課金の変動費へ

チュイ氏は、トークンの単価は下がっても、消費・生成されるトークンの量がそれ以上の速さで増えていると述べています。

それでも、全体の60%は来年AI投資を増やす見込みで、28%はすでに情報通信の予算の1割を超える額をAIに回しています。成果が見えている用途があるからこそ、投資を続けながら費用対効果を管理する新しい規律をつくっている、というのがチュイ氏の見立てです。チャットボットのような部署横断のツールは、オフィスソフトや通信と同じ必要経費として扱われ始めているといいます。

自分の会社に置き換えると、ソフトの月額という固定費が、AIの従量課金という変動費に置き換わっていく流れです。どの業務でAIを使えば元が取れるのかを決め、使用量を見る担当を置く。この線引きができない会社は、AIを使い始めた途端に予算が読めなくなるおそれがあります。

主役は何を作るかを決める人

ここまで読むと、結局はエンジニアを大勢抱えた大企業の話だと感じた方もいるでしょう。実際、AIエージェントを全社展開する大企業は1年で27%から40%に増え、それ以外の組織は22%のままでした。

全部を自前で作れという話ではない

マッキンゼーでAI部門を率いるシニアパートナー、リーヴェン・ヴァン・デル・ヴェケン氏は、つい最近まで多くの経営者が、AIは自社の技術チームの手に負えず、早く動くには外部パートナーを押さえることだと考えていたと振り返ります。いまはその空気が変わり、経営者は自分たちでAIツールを作るには何が必要かを問い始めているといいます。

ただし同氏は、何でも自前で作れ、パートナーと組むな、という意味ではないと付け加えています。先を行く組織は、主体性を持った立場からパートナーと付き合っているというのです。早く動く組織は、どこを買い、どこを作り、どこに社内の力を持つかを意図的に決め、運用コストを最初から設計上の制約として扱っています。

内製化の流れが求めているのは、全部を作ることではなく、主体的に選ぶことです。

差がついたのは業務の流れの作り直し

ハイパフォーマーの約4分の3は、AIをきっかけに業務の流れを根本から作り直していました(前年は55%)。それ以外の会社では約4分の1です。

個人のレベルでは、回答者の80%がAIで自分の生産性が上がったと答えています。それなのに、会社の利益(EBIT)にAIが貢献したという回答は37%で、前年からほぼ変わっていません。同社のダン・ティンコフ氏は、個人の成果と会社全体の成果の間にある開きを今年の際立った発見に挙げています。ツールを配るだけでは、この差は埋まらないということです。

そう考えると、この変化の主役はコードを書く人に限りません。自分の担当業務を、AIで作れば済むところ、買ったほうが安いところ、人が判断すべきところに仕分けて言葉にできる人が、AI予算の使い道を決める側に回っていきます。現場の段取りを細かく知る日本の会社員にとっては、新しい技能を一から身につける話というより、いまの仕事の延長で力を発揮できる話だといえます。

いま言えること、これから見るべきこと

調査から確実に言えるのは、買わずに作る動きと、AIの利用料を管理する動きが同時に広がっているということです。そこから読み取れるのは、ソフトに払っていた予算が、AIの利用料と社内の人材へ少しずつ付け替わり始めている流れです。

先行きは条件次第です。トークン単価がさらに下がれば、作る側に回る会社は増えるでしょう。反対に使う量の伸びが止まらなければ、AI代を管理できる会社とできない会社の差が開きます。マッキンゼーのタラ・バラクリシュナン氏は、変化を阻む要因はますます組織が変化を受け止める力になっていると指摘しています。来年の調査で、買わずに作る割合と、コストで利用を絞る割合がどちらに動くかは、注目しておきたい指標です。

まとめ

マッキンゼーの最新調査が示したのは、第一に、約3社に1社がAIで作れることを理由にソフトの購入を見送り、買うか作るかの線を売る側ではなく客の側が引き始めたことです。第二に、作ることはタダではなく、AIを使い込む会社ほどトークン代に悩んでおり、どこを作りどこを買うかの線引きが利益を左右し始めていることです。そして第三に、成果を上げている会社は全部を自前にするのではなく、主体的に買う・作るを選び、業務の流れそのものを作り直していることです。

この線を引けるのは、コードを書く人だけではありません。業務を一番よく知っている人こそが、どこを買い、どこを作るかを決める立場に近いのです。まずは、あなたが毎日回している業務を、AIで作れる部分、買うべき部分、人が判断すべき部分に分けて書き出してみてはいかがでしょうか。AIで作れる時代に強いのは、自分の仕事を言葉にできる人です。

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